【連載①】『アイ・ハヴ・ア・ドリーム』(真実を元にした小説の復刻版)

この小説は2008年10月に私に「実際に起きたこ」とを小説にし、出版しましたが、完売!!多くの方々から「復刻版」の希望を受けた内容です。この度「復刻版」を出版する前に全編、皆様にご披露します。できるだけ「書いた中身」を替えないでそのまま掲載したいと思います。

なお、時代は13年前なので、その点をご容赦ください。

内容は「真実」ですが、人名、病院名などは別名にしてあります。

まえがき

「二人に一人はガンになる時代」と言われ、はや数年が過ぎた。この間、毎年新規のガン患者は七十万人ずつ増えている。にもかかわらず、どうして、日本人は「ガン」に対して、こんなにも無知で、無関心なのだろうか? 自分の身内が「ガン」になっても、時間が経てば忘れてしまう。好きな芸能人が「ガン」で亡くなっても不感症だ。

「ガン」は「風邪」と同じく、いつ、誰が発症してもおかしくない「病気」だ。確かに九十年代までは「ガン」と「死」はイコールに近かったかもしれない。だが、ガンで助かる率も少しずつではあるが増えてきた。「病気はガンだけじゃないよ」と文句を言う人がいるかもしれない。その通りだ。心筋梗塞、肺炎、AIDSなど、日本人が亡くなる病気はガンだけではない。だが、「二人に一人」もかかるというガンに対して、日本人はあまりにも無関心すぎるのではないだろうか? 前述したが「ガン」は「風邪」と同じく、誰もがいつでも発症する病気なのだ。

ここに一人の青年がいる。と言っても、すでに四十歳を超えた立派な大人だ。彼はスポーツマンで、過去に一度も健康診断で引っかかったことがない、いわゆる「健康優良児」だ。しかし、ある日、それは突然やってきた。

「あなた、死にます」

 青年はおののいた。「死ぬって、どういうことですか?」

これから紹介する物語はフィクションではありません。事実に基づいた「物語」です。物語に出てくる大学名、主人公・看護師名などは、もちろん仮名です。

この物語によって、現在「ガン」で苦しんでいる患者さん、それを支える家族の方々、また、ガンで身内・知り合いを失った人達に、少しでも共感いただければ幸いです。稚拙な文章であることはご容赦ください。

I have a dream

暗いくらい闇の中

あたりはひっそりしている

湖に浮かぶ一艘の白い小舟

僕はその小舟の中で一人寝ている

どこかから聞こえて来るふくろうや動物達の鳴き声

それ以外に誰もいない

パープル色の不気味な夜

僕は船の上で静かに寝ている

アンニ=フリード・リングスタッドが歌うI have a dreamが静かに湖を覆う

僕はこのままどこへ向かうのか?

僕の行く先に待っているのはどんな出来事なのか?

良いこと?

悪いこと?

それとも……

それは誰にもわからない……

【第一章】 入院    ~I WONDER~

<第一日目>

「土生(はぶ)さーん、土生さーん」

僕は看護師の声で、ハッと目が覚めた。

「土生さん、寝てた? ずいぶん、お待たせしてごめんなさい」

「はあ」

「さあ、体重、測りにいきましょう」

僕はベッドから降りて、看護師の言うまま、病室を出た。

病棟の入り口に身長、体重の測定器が置いてあった。

「なんだか、小学校のときの健康診断みたいだね、これに乗るの?」

「土生さん、面白いこと言いますね。土生さん、体、大きいですよね?」

「えっ? 大きい?」

「何かスポーツやっていたんですか?」

「テニスを」

「まずは、身長から測りましょう」

なんか全然、会話かみあっていないな。まあ、いいか。

「ジャンパーは着ていてもいいの?」

「いいわよ、それにしても土生さん、ずいぶん、身長、高いわね」

さっきと同じこと言っている。

「そんなことないと思うけど……」

「えーと、一七二センチね」

「普通でしょ?」

看護師は白衣のポケットからメモ帳を出すと、僕の身長をボールペンで一七二と書いた。

「次は体重ね」

なーんだ、返事も、ないや。

「ジャンパーは脱いだほうがいい?」

「大丈夫ですよ。最初から洋服分を加算して計算できるようになっているから。この体重計、頭いいでしょう?」

「はあ」

僕は看護師の言われたままに体重計に乗った。

「六十八キロね」

看護師はまた、ポケットからメモ帳を取り出し、僕の体重を乱書きした。

「ごめんなさいね。ずいぶん待たせちゃって。どのくらい待ちました? でもね、また、しばらく、お部屋で待ってもらうことになるけど、いいですか?」

「はあ」

僕は何がなんだかわからなかった。僕と看護師の前を急ぎ足で行きかう白衣の医師や看護師達、パジャマ姿の患者らしき人達、点滴をつけたまま廊下を彷徨う老人達。僕の身にはいったい何が起こっているのか、さっぱりわからなかった。さっきまで、確か、湖にいたはずなのだが、それが、なぜ、今、病院にいるのか?

「私は宮前って言います。今日から土生さんの担当です」

宮前看護師はそう言うと、ベッドの頭にネームタグを貼った。

僕は、そのネームタグを見ながら、つぶやいた。

「担当看護師、宮前さん、ね」

決して広いとは言えない、いや、むしろ畳二畳分しかないカーテンで区切られただけの空間で宮前看護師は僕に微笑んだ。

「ごめんなさいね。よくわからないけど、ここにはルールがあって、新しく入院して来た人は真ん中。そのあと、廊下側、最後は窓側って……いい場所に移動するまで時間がかかるのよ。真ん中は一番狭いけど、我慢してね」

ローテーション? 監獄のようだ。新参者の僕は、両脇に先輩患者を抱え、その間で我慢しろということか。

「あっ、パジャマに着替えて寝ていてください。あとで先生と師長が来ると思いますから」

「はあ」

恐らく僕の半分くらいの年齢の宮前看護師はテキパキと物事を進めながら、僕のスケジュールをこなしていった。僕はただただ宮前看護師の言われるままに着替えようとバッグからパジャマを取り出した。

「暇かもしれないけど、ゆっくりしていてね、じゃあね」

宮前看護師はカーテンを閉め、病室を出た。

じゃあね……か。看護師というのはずいぶんフランクなんだな。若い娘に「じゃあね」なんて言われたのは、いつぶりだろうか? それにしても暇だ。これから何が起こるというんだ? パジャマに着替えた僕はどうしていればいいんだ?

そこは古ぼけた病室だった。ベッドに寝ても見えるのは、古い病棟にありがちな薄気味悪い白い天井だ。さっき宮前看護師に起こされるまで、この天井が不気味であることにはまったく気がつかなかった。でも、目がパッチリ開いた今、僕の上には白い天井、誰だかわからない両隣の患者の呑気な会話、バタバタと廊下を走る看護師らしき人達の足音、医師と何やら口論している老人の声……ああ嫌だ嫌だ。一気に時間が回り始めた。

さっき僕がいたのは現実ではなく「夢」だったのだろうか? どうして船に乗って静かな夜の闇の中で寝ていたのだろうか? そうか、ここにいるのが「現実」で、さっき見た湖は「夢の中の出来事」だったのだ。僕は少しずつ覚醒していった。

だが、目を覚ますことは必ずしもいいことではない。普段の生活では聞けないような会話があちこちで飛び交っている。以前、「入院したら、そこは監獄だ」と上司が言っていたが、もう逃げるにはあまりにも遅すぎるようだ。仕方なくバッグからMDプレイヤーを取り出し、両耳にイヤホンジャックをガッチリはめ、音楽を聴くことにした。今時、一部屋に六人なんて、変なところに入れられたものだ。このあいだ、会社の後輩の勝俣の見舞いに行ったときは確か、三人部屋でシャワーまで付いていた。なのに、ここは一部屋に六人も患者がいるのか? 参ったなあ。でも、保坂先生から、二週間入院すればいいと言われたから入院したのだ。二週間我慢すればいいことなんだ。あとはさっさと帰るのみだ。

「(土生さん)」

突然、カーテンが開いた。宮前看護師が何か叫んでいる。たぶん、僕の名だろう。僕は仕方なくイヤホンを取った。

「何か用ですか?」

「本当にごめんなさい。順番がバラバラで。今度はレントゲンと心電図に行ってください」

「えっ? この迷路みたいな病院の中を一人で行くの?」

「そうだよね、どうしよう」

宮前看護師が腕組みしながら考えていると、またカーテンが開いた。宮前看護師よりは明らかに年上の白衣を着た男女が顔を出した。

「土生さん、はじめまして。バタバタしてごめんなさいね。今日から土生さんをお世話します主治医の鎌倉です」

背は僕と同じくらい。でも、ラグビーでもやっていたかのようなズッシリした体をした鎌倉という医師は、右手でメガネをかけ直して、僕に話しかけてきた。

「土生さんですね。主治医の鎌倉です。どうぞ、よろしくお願いいたします」

僕は思わず起き上がって、正座し、頭を下げた。

「鎌倉先生ですか? えっ? 外来診察のときに、僕に入院しろと言った保坂先生が担当じゃないんですか?」

「保坂は私どものチームのリーダーですが、外来専門なんです」

鎌倉先生はそう言うと、さっき、宮前看護師が貼ったベッドの頭に「主治医/鎌倉」というシールを貼った。

「主治医/鎌倉、担当看護師/宮前か」

僕がブツブツつぶやいていると、鎌倉先生はまた右手でメガネに触れて僕に語りかけた。

「土生さん、ごめんなさい、これから他の患者のところに行かなければいけないので。時間もたっぷりありますしね。詳しいことは、また明日」

「時間がたっぷり? 先生、それはどういう意味ですか?」

僕が質問を終える間もなく、鎌倉医師は部屋を出て行ってしまった。

「えっ? もう行っちゃうの?」

「ごめんなさいね、バタバタしていて」

まあ、医師なんて、そんなものなんだろう。仕方ないな。

「師長どうしましょう。土生さんの心電図とレントゲン」

「そうね、ヘルパーさんについていってもらいましょうか」

「そうですね、わかりました」

完全に会話から僕は外れている。僕が二人の会話についていけないと気がつくや否や、師長は笑顔で僕を見降ろした。

「宮前がついていければいいんだけど、ごめんなさい。ほかの患者さんを看なければいけないので。ヘルパーが責任を持って、ついていきますから」

「ヘルパー?」

ヘルパーってなんだ? 僕は障害者なのか? それとも老人か? 病院用語はさっぱりわからない。

「じゃあ、土生さん、今日からよろしくお願いいたしますね。あっ肝心なこと忘れてた。私の名前言っていませんでしたね。血液内科の師長の古田です」

「よろしくお願いします」

僕は軽く頭を下げた。

「宮前さん、あと、よろしくね」

「わかりました」

師長はそう言うと、慌ただしく、病室を出て行った。

「今、ヘルパーさん、呼びますから、待っていてくれますか?」

「ナースコールか何かで呼ぶのですか?」

と僕が言いかけるや否や、宮前看護師は僕のそばで突然叫びだした。

「上野さんいますか? 上野さーん」

おいおい、「呼びます」ってこういうことかよ? 病室からこんなにデカい声出すなよ。何考えているんだ。

「はーい、ここにいますよ」

えっ、ヘルパーまでコダマするの?

「今すぐ、55にきてくれませんか?」

ドタバタ走る音がしたかと思うと、その上野というヘルパーは僕のベッドまで来た。

「ごめんなさい。土生さんをレントゲンと心電図に連れて行ってもらえますか?」

「わかりました。車椅子いりますか?」

突然、カーテンが開き、上野ヘルパーが顔を出した。年齢は僕より少し上というところだろうか? 老人介護の現場にいるヘルパーのような恰好をしている。

「大丈夫です、歩けますから」

「じゃあ、土生さん、上野さんについていって」

「終わったら、電話してもらえば迎えに行きますが……」

「そうしてもらえますか?」

「土生さん、上野と申します。心電図もレントゲンも地下なので、エレベーターで行きましょう」

「よろしくお願いいたします」

僕はベッドから降り、スリッパを履き、上野さんについていった。

「じゃあね、またあとで」

手を振る宮前看護師を尻目に、僕は上野ヘルパーと病室を出て行った。

上野ヘルパーと病室を出てはみたものの、改めて見ると汚らしい病棟だ。夜にお化けが出そうな雰囲気だ。変わらず多くの医師や看護師、患者が右往左往している。何をあわてているんだ。そもそも「血液内科」ってなんだ? なんで僕は「血液内科」というところにいるんだ? 生まれてこのかた、「血液内科」という科があるなんて、先日初めて知った。

血液内科の部屋の数は、一、二、三、四、五。全部で五つだ。一部屋に六人患者がいるから計三十人がマックスの患者数になるわけだな。どうやら僕の部屋はその真ん中の三番目。四番目と五番目は女性患者がひっきりなしに出入りしているから女性部屋ということか。

そんなことを考えていたら、血液内科の受付を通り過ぎた。すぐそばにあるエレベーターに乗らずに、上野ヘルパーは左折した。

「あれ? 心電図とレントゲンって地下ですよね?」

「血液内科のエレベーター使うと、かえって遠回りなんですよ」

僕はあたりをキョロキョロ見回しながら、上野ヘルパーのあとをついていった。五十メートルくらい歩くと突然、あたりが新しくなった。

「この病院はツギハギだらけでしょう?」

確かにさっきまでいた血液内科の棟とは明らかに違う。

「ということは、僕がいる血液内科は未だに工事の予定なしなんですか?」

「順次、改装して、ようやく来年、改装みたいですね」

「来年ですか」

「その頃は、土生さんはいませんからね」

喜んでいいのやら、悪いのやら。複雑な気持ちになった。

そうこうしているうちに「最新鋭のエレベーター」の前に着いた。

「このエレベーター、汐留のビルみたいに最新ですね」

「ここは外科なの。頻繁に患者さんを運んでいるからたぶん、エレベーターは来ないでしょう」

上野ヘルパーは最新のエレベーターを横目に、また左折した。

「このエレベーターに乗るんじゃないんですね」

「あっちのエレベーターで行きましょう」

一〇〇メートルくらい歩くと、少し古ぼけた棟のエレベーター前に着いた。

「この下がちょうど、レントゲン室なので」

と言われても僕には何がなんだかわからない。こんなに迷路のようで、患者は不自由していないのだろうか?

「土生さん、エレベーター来ましたよ」

僕は上野ヘルパーの言われるままにエレベーターに乗り込んだ。

病院というのは本当に陰気くさい。アロマを炊くとか、綺麗な壁紙を貼るとか。そういう発想はないのだろうか?

「土生さん、まずはレントゲンからね。私、レントゲン室の外で待っていますから」

僕は一礼して、レントゲン室に入った。この病院に来るまでにさまざまな検査を受けてきたけど、確かレントゲンも受けたはずだが、また受けるのか? 単なる診療報酬稼ぎか?

「土生葉月さんですね」

「はい」

「生年月日をお願いします」

「昭和で? 西暦で?」

「お好きなほうでいいですよ」

「昭和三十九年八月八日」

「はい、OKです。では、そのままでパジャマ脱がなくていいですから、ここに顎を置いて、私が『はい』と言ったら息を止めてください。わかりますよね? いつもと同じレントゲンですから」

「はあ……」

僕は技師の言われるままにレントゲン台の上に乗り、顎を一番上につけて、肺を機械に着けた。

「それではいきますよ。いいですか」

「はい」

「ハハハ、土生さん面白いですね。私が言う前に『はい』と言ったりして」

「すみません」

「では、いきます。『はい』息をとめて」

この瞬間、昔から嫌だった。どうして息を止めないとレントゲンは撮影できないのだろうか? いつも疑問に思っていた。

「はい、お疲れ様でした。次は心電図ですよね。行き方わかりますか?」

「外にヘルパーさんがいますので」

「はい、お疲れ様でした」

「ありがとうございました」

特に着衣の乱れもなく、そのまま僕はレントゲン室を出た。レントゲンというやつは、ワイシャツはだめなのに、パジャマは着ていてもいいんだな。

「ここが心電図室です。たぶん、時間かかるので、終わったら電話してもらうよう手配しておきますから。土生さんは終わったら、ここで待っていてくださいね」

「はい、わかりました」

レントゲン室からここまで来るのさえわからなかったのに、まして、病室に一人で無事に戻れるかわからない。

「次の次が土生さんらしいですから、呼ばれるまで待っていてください。私はいったん、病棟に戻ります」

上野ヘルパーはそう言うと迷うことなく、廊下を歩き、あっという間に姿が見えなくなってしまった。ヘルパーって実は忍者?

「土生さーん」

数分ボーッとして待っていたら、僕の番が来た。心電図か。僕の病気とどういう関係があるんだ?

「よろしくお願いします」

「ここに寝てください」

僕は言われるまま寝た。

「ちょっと冷たいですよ」

そう言うと、パジャマをまくり上げ、ジェルを塗りつけ、ポンポンと吸盤を張りつけていった。

「うー、冷たい」

「ごめんなさい、すぐに終わりますから」

男性の心電図師ならまだしも、若い女性にやられると、なんとなく恥ずかしい。

「はい、リラックスしてください」

そばにあるレジスターのような機械からレシートみたいなものが出てきて、心電図師はそれを手に取ってみている。

「はい、終わりました、お疲れ様でした」

心電図師はタオルで僕の体を拭いた。やはり若い女性にやってもらうのは恥ずかしい。

「ありがとうございました」

「ヘルパーさんが迎えに来るのですよね? さっきいた待合室にいてくれませんか?」

「はい、ところで、レントゲンとか心電図とか、僕の病気とどういう関係があるのですか?」

「病気に関わらず、入院したら全員受けるようになっているんですよ」

「そうなんですか」

僕は一礼して、部屋を出た。入院する前、そして入院してから、同じような検査ばかりして、本当に意味があるのだろうか?

これから、何が待ち受けているのか?

僕は上野ヘルパーを待ちながら、頭の中は疑問でいっぱいだった。

こんなに元気なのにパジャマを着て、待っていると、異国の世界に来たような気がしてならない。まるで回転ずしのように次から次へと出てくるメニュー。その意味さえもわからないまま、逆らうことなくこなしていく。そして、時間がどんどん過ぎていく。他の患者はなんとも思わないのだろうか?

「土生さん、お待たせ」

おお、なんと早いことだ。心電図検査が終わって、まだ三分くらいしか経ってないぞ。

「さあ、戻りましょう」

情けない。いつもは誰かを助けてきた僕が、今は看護師とかヘルパーとか。普通に生きていたら滅多に会わない人達に親切にしてもらっている。

上野ヘルパーと通路を逆戻りして、病棟に着いた。さっきまでの気分とは明らかに違う。病院の陰気さに呑まれてしまった。結局、上野ヘルパーとはほとんどしゃべらなかった。

「ありがとうございました」

「どういたしまして」

そう一礼すると、僕は自分のベッドへ戻った。

寝ながら、相変わらず見えるのは、昭和の臭いのしそうな白い天井だ。左隣はずいぶん賑やかだな。カーテンを閉めているからわからないが、四、五名はいる。井戸端会議だな。

「あんちゃんの隣に今日、一人来たな」

「若いのにかわいそうだな」

どうやら僕の話をしているようだ。ああ嫌だ。なんで元気な僕がこんなところに押し込められなければならないんだ。僕はさっきのようにMDで音楽を聴くことにした。

(続く)

 

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