タイムカプセル:ABBA『Arrival(アライヴァル)』

ディスコポップの名曲「ダンシング・クイーン」から、感動的な「ノウイング・ミー、ノウイング・ユー」まで、ABBAの代表曲の数々を世に知らしめたのがこのアルバム『Arrival』です。その音楽はポップスの中でも最高峰に位置づけられる一方で、アルバム全体としての統一感には欠けており、煌びやかなコンピレーションアルバムのような印象を受けます。

私の音楽への夢中は、まだ感受性の強かった子どもの頃、両親のCDコレクションに耳を傾けながら始まりました。幸運なことに、家にはNo DoubtのスカパンクやHoodoo Gurusのグランジロックといった音が溢れていて、さらにはエルトン・ジョンやビートルズといった伝説的アーティストの音楽もありました。両親は、私や兄弟たちに自分たちが育った時代の音楽の話をよくしてくれて、それを家のステレオから大音量で流しながら、私たちは床に座ってうなずいていたものです。

その思い出話を聞きながらCDのジャケットをめくる時間は、何とも言えない癒しに満ちていました。YouTubeやiPodが主流だった私の世代ですが、コンパクトディスクに封じ込められた小さな世界には格別の魅力がありました。各ジャケットには個性があり、中のリーフレットをめくるたびに、これから始まる世界の一端が垣間見えるのです。父が新しいCDをステレオに差し込むと、私は曲に没入し、不思議な安心感や理解された感覚、そして生きている実感に包まれました。

そんなわが家の習慣の中でも、何度も繰り返し聴いたのが、スウェーデンの伝説的ユーロポップグループ「ABBA」の楽曲でした。アグネタ・フォルツコグとアンニ=フリード・リングスタッドというボーカリスト、ビヨルン・ウルヴァースとベニー・アンダーソンという作曲家から成るABBAは、1974年のユーロビジョン・ソング・コンテストで優勝し、世界的な名声を手にします。そして2年後、彼らの名声を不動のものにしたアルバム『Arrival』をリリースしました。

それまでABBAは、グラムロックから牧歌的なフォークまで様々な音を試してきましたが、どこか定まらない印象もありました。しかし『Arrival』では、演劇的な音楽スタイル、風変わりな物語、洗練された構成が随所に見られます。プロデュースを担当したベニーとビヨルンは絶好調で、アグネタとフリーダのハーモニーもパズルのようにぴったりと合致します。他のアルバムと比べても、本作はまさに“時代を超える”作品といえます。

本作はABBAが“自分たちらしさ”を見出したアルバムであると同時に、歴史的にも重要な一枚です。たとえば「ダンシング・クイーン」は、今もなお愛される名曲として本作に収録されています。(ちなみに、グループ名「ABBA」に鏡文字の“B”が初めて使用されたのもこのアルバムからです)。

また『Arrival』の楽曲には、ABBAらしいポップで遊び心に富んだサウンドが満載です。たとえばアルバム冒頭の「ホェン・アイ・キィスト・ザ・ティーチャー」は、12弦ギターの軽快なストロークにのせて、アグネタが数学教師にキスした話を小悪魔的に歌い上げます。これは定番曲のひとつですが、似たような楽曲でも過小評価されているものもあります。

「ザッツ・ミー」では、「私は“結婚するような女の子じゃないキャリー”」という歌詞を弾むようなピアノの上に乗せて歌い、もう少しセクシュアルなテーマを遊び心たっぷりに表現しています。

『Arrival』の楽曲は陽気なものばかりではありません。中には悲しみや孤独を感じさせる歌詞も含まれています。バラードの「マイ・ラヴ、マイ・ライフ」は、失恋の痛みを幻想的な音の中で描いたもので、聴く者を天上のハーモニーで包み込みます。「私はあなたを所有していない/だから行って、神の祝福を」と歌うその姿は、とても静かな哀しみに満ちています。

また、「ノウイング・ミー、ノウイング・ユー」も同様に、別れを描いた曲ですが、今度は相手の視点で語られます。「別れるのはつらい、でも私は行かなきゃ」と歌い、エレキギターの激しい音が、その決意を反映します。楽しい時間があったとしても、別れの時は来たのだと悟るのです。

「ダム・ダム・ディドゥル」では、フィドル(バイオリン)ばかりに夢中な恋人へのやきもきが描かれています。こういった曲が、「ABBAはただのポップバンドだ」と批判される理由でもあります。実際、ビヨルン自身がこの曲は録音当日に急ごしらえで作られたと認めており、ボーカルも高音域と楽器の音が重なり、やや甲高く感じられる部分もあります。それでもこの曲は非常にキャッチーで、ABBAの風変わりな魅力を象徴する1曲でもあります。

「マネー、マネー、マネー」はもっと濃厚で演劇的です。ピアノのコードが不穏な雰囲気を醸し出し、お金に取りつかれたずる賢いビジネスマン像を思い起こさせます。やや漫画的ではありますが、それがABBAの世界観であり、重厚な演奏と誇張された歌詞が絶妙に調和しています。

もちろん、感傷的な歌だけでなく、明るく希望に満ちた曲もあります。前述のディスコ・アンセム「ダンシング・クイーン」は、元々「Boogaloo」という仮タイトルでしたが、再構成を経てあのアイコニックなピアノとシンセが絡み合うサウンドになりました。これは夜の街で踊る若者たちの自由さと高揚感を歌った曲であり、もっと言えば「ちょうど良い音楽を、ちょうど良いタイミングで聴いたときの無敵感」を体現した歌です。誰もが憧れるその感覚こそが、この曲が今も愛され続けている理由でしょう(ちなみにフリーダはこの曲の最初のデモを聴いたとき、涙したと言います)。

とはいえ、『Arrival』のすべての曲が傑作というわけではありません。たとえば「タイガー」は攻撃的なロック調の曲ですが、やや空回り気味です。「ホワイ・ディド・イット・ハフ・トゥ・ビー・ミー」はドゥーワップ風の単純な楽曲で、過去の「ハッピー・ハワイ」の焼き直しのようにも感じられます。ABBAのロック調の曲を好むファンもいますが、私はこれらの曲には他の曲ほどの魅力は感じません。

アルバム最後の「アライヴァル」というタイトル曲も同様です。スウェーデンのフォークを思わせる荘厳なアンビエント調で、バンドのルーツを感じさせるものですが、締めくくりとしてはやや印象が弱いように思えます。

結論として、『Arrival』は確かに優れた楽曲が多い一方で、全体としてのまとまりには欠けており、アルバムというよりはシングル集といった印象です。統一感はありませんが、キラキラしたシンセやレトロなディスコビートにのせて、ユニークな物語が展開される楽曲群は楽しく、風変わりな魅力にあふれています。中には実験的な構成で光る曲もあれば、以前のアイデアを焼き直したようなシンプルな曲もあります。

このアルバムの一貫性のなさを理由に、当時の評論家たちはABBAを過小評価しました。しかし、そのリリースから約50年後の今も、私はこのアルバムを楽しんでいます。なぜなら『Arrival』は、ABBAの最高傑作のいくつかを世に送り出したのですから。これを評価せずにいられるでしょうか?

https://www.pastemagazine.com/music/abba/time-capsule-abba-arrival

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