「皆さんが楽しんでくれたと感じられることが、私たちの最大の喜びなんです」と、アンドレア・ヴァロワは語る。
ABBAファンが客席を埋め尽くすなか、7歳のリース・ラロックが真っ先に立ち上がりました。彼女にとって、生演奏のダイナミックな音楽を聴くのはこれが人生初の経験。
最初の曲が鳴り始めた瞬間から、ドラムのリズムに体を揺らし、『レイ・オール・ユア・ラヴ・オン・ミー」に合わせて夢中で踊ります。スモークと照明のなかで演奏するバンドに、手でハートの形を作って感謝の気持ちを表しました。
リースはまだ知らないのです――やがて彼女自身がスポットライトの下、ステージに招かれ、クリス・イヴランドと一緒に「ノウイング・ミー、ノウイング・ユー」を演奏しながら踊ることになることを。
彼女のダンスは観客の熱を高め、キラキラの銀のドレスに身を包んだ人々が席で踊り、手拍子を打ち始めるほど。
演奏後には、イヴランドから名前入りの特製ピックをプレゼントされ、「人生で最高の夜だった!」とリースは歓喜の声を上げました。
*7歳のリース・ラロックが、3月28日、コモンズ・シアターで「ノウイング・ミー、ノウイング・ユー」に合わせて、クリス・イヴランド(左)とジョン・ウィルバーフォース(右)の隣で踊る。
満席の劇場に響いたABBAの名曲たち
2024年3月28日夜、アルゴンキン・コモンズ・シアターには老若男女問わず多くの人々が詰めかけました。ボーカルのケビン・ライト、アンドレア・ヴァロワ、クリスティーン・アイアンズ、ジョエル・ソーヴと、その“ファミリー”による圧巻のステージを目当てに――。
このバンドは約6年前に結成され、各メンバーは豊かな音楽経験と、若い頃からのABBA愛でつながっています。
「私たちはまるで兄妹のような存在。“S.O.S.ファミリー”って自分たちで呼んでるんです。本当に愛情にあふれた関係なんですよ」と、アイアンズは『Times』紙の取材で語っています。
*観客がバンドとともにステージに上がり、最後の曲「ダンシング・クイーン」を一緒に披露。アンドレア・ヴァロワ(左)とクリスティーン・アイアンズ(右)が、3月28日コモンズ・シアターのステージにエネルギーを届ける。
写真提供:ララ・シマール
ステージと観客がひとつに
「エンジェルアイズ」「ダズ・ユア・マザー・ノウ」「ダンシング・クイーン」などの人気曲に合わせて、観客は世代を超えて立ち上がり、歌い、拍手を送りました。
長年ABBAを愛してきたファンにとって、待ちに待った夜――
「この日を何年も待っていたので、すごく楽しみでした」とメーガン・ブラウンジーさんは語り、母親のアン=マリー・コリソンさんと一緒に、音楽を楽しむ夜を過ごそうと来場していました。
リースのステージでの瞬間をきっかけに、この夜最初のスタンディングオベーションが巻き起こります。
やがて場内は静まり、観客たちは「チキチータ」のバラードに耳を傾けました。
最初は一つのライトが劇場の隅で光っていましたが、やがて客席全体に光が広がり、無数のライトが揺れる幻想的な光景となりました。
*アンドレア・ヴァロワが、3月28日コモンズ・シアターでの「タイガー」の本格的なパフォーマンス中に力強いロングトーンを響かせる。ケリー・ラティマーがバックボーカルを担当(左)、ジョレーン・シマールがハーモニーを重ねる(右)。
写真提供:ララ・シマール。
音と感情の一体感
「悲しきフェルナンド」では「今夜は何かが違う」という歌詞が観客の合唱となって劇場に響き渡ります。
メロディーに合わせて片側の観客が腕を振る様子は、まさにクラシック・アンセムの魔法。
「ステージに立つと、観客からのエネルギーを全身で受け取るんです。まるで別の世界に入ったような感覚。私は特にそうなります」と、ヴァロワは語ります。
「自分を忘れて、そして観客も自分を忘れられるような世界。それが楽しくてたまらないんです」。
「テイク・ア・チャンス」では、観客全員が大合唱。ヴァロワとアイアンズが完璧なハーモニーを決めると、拍手と歓声が一段と大きくなりました。
次の「ダズ・ユア・マザー・ノウ」では、ソーヴのギターイントロで一気にボルテージが上がり、観客は熱狂の渦へ。
*ジョエル・ソーヴが、3月28日コモンズ・シアターでの「キッシィズ・オブ・ファイア」にて圧巻のギターソロを披露し、観客を熱狂の渦に巻き込む。写真提供:ララ・シマール。
楽しむ心が伝わるステージ
「バンドを結成した当初から、楽しむことを大切にして時間をかけて準備してきました」と、ライトは語ります。
「それがステージにそのまま表れていると思います。僕たち自身が楽しんで音楽を奏でているからこそ、観客の反応が非現実的なほどすごく感じるんです」。
第二部の前にも興奮した観客の会話が響き渡り、バンドは金と白の衣装に身を包んで再登場。
あまり知られていない「キッシィズ・オブ・ファイア」も演奏されましたが、ヴァロワとアイアンズがブレザーとシルクハットを身につけて「SOS」を披露した瞬間、空気は再び引き締まりました。
*アンドレア・ヴァロワ(左)、ジョレーン・シマール、クリスティーン・アイアンズ(右)が、3月28日コモンズ・シアターのステージで「マネー、マネー、マネー」をスタイリッシュに熱唱し、パフォーマンスを盛り上げる。
写真提供:ララ・シマール。
終盤に向けて高まる熱気
「マネー、マネー、マネー」では、ヴァロワとアイアンズのシンクロしたダンスが舞台から観客席までエネルギーを波紋のように広げました。
アイアンズが歌い上げた「ザ・ウィナー」は、その圧倒的な歌唱力で観客の心をつかみました。
そしてフィナーレは誰もが待っていた曲――「ダンシング・クイーン」。
観客の多くがステージに招かれ、共に踊るラストシーンとなりました。
「今の時代、誰もがこういう音楽を必要としていると思います。ただ楽しくて、いい曲で、心地よいビート。音楽って、幸せになれるものですよね」と、コリソンさんは語りました。
観客たちは最後にローカルスターとの写真撮影の列を作り、キラキラと目を輝かせていました。
「音楽は特別な存在。人々をひとつにする“偉大なつながり”です。音楽は言葉とは違うレベルで人と通じ合う手段なんです」と、ヴァロワは締めくくりました。