マドンナのABBAサンプリング・ヒット、20年後の今もポップ・ミュージックを定義する

2005年、マドンナは通算10作目となるスタジオ・アルバム『Confessions on a Dancefloor(コンフェッションズ・オン・ア・ダンスフロア)』をリリースした。
「ポップの女王」は再発明の達人であり、そのどの時代も非常に象徴的だ。このアルバムも例外ではなく、リードシングルによってマドンナが「何でもできる存在」であることが改めて証明された。

キャリア初期から自己表現を掲げ、常に自身のビジョンとともに進化してきたマドンナ。
『Confessions on a Dancefloor』というタイトルが示す通り、この時代のマドンナはダンス・アンセムの創作に完全にコミットした。それは、7年前の『Ray of Light』での取り組みの延長線上にある、ごく自然な流れだった。
この作品は、単にダンス音楽を聴かせるという域を超え、フラッシュライトがきらめくクラブの文化そのものに聴き手を没入させてくれる。

その没入感を完璧に達成するため、マドンナは革新的なプロダクションと懐かしの名曲を融合させた。なかでも有名なのが、ABBAの「ギミー!ギミー!ギミー!」をサンプリングし、アルバムのリードシングル「Hung Up(ハング・アップ)」として再登場させたことだ。
マドンナはあえて「一歩下がってから前に進む」という大胆な決断を下したが、彼女の卓越した直感は新たなチャートの基準を打ち立て、きらびやかなダンス・チューンがいまなお音楽ランキングの上位を席巻している。

ダンスの傑作が生まれるまで

20年にわたるキャリアの成功を背に、マドンナは2005年、何か新しく大胆なことを始める準備ができていた。
『Confessions on a Dancefloor』の制作段階で、彼女は2年前に初めて一緒に仕事をしたスチュアート・プライスを共同プロデューサーに迎えた。プライスはエレクトロニック・ミュージック、DJ、作曲分野で知られており、ダンスとクラブの世界に精通している。

彼の専門性があったからこそ、マドンナは求めていた「ダンス志向」に本格的に取り組むことができた。

「Hung Up」では、1979年にリリースされたABBAの中毒性の高い楽曲「ギミー!ギミー!ギミー!」を大胆にサンプリング。
プライスは、ダンスのインスピレーションを探していたときにふと思い出してこの曲を流したという。
「マドンナは真剣に聴いていたと思ったら、口を開いて突然歌い出したんだ。『あなたが言ったりやったりする些細なことすべてに、私は夢中、夢中なの…』って。あっという間の出来事だった」とプライスは振り返る。
「プロダクションは時間がかかったけど、『Confessions on a Dancefloor』の制作はとにかく楽しかったよ」。

このポップ・アンセムは、サンプリングという文化的技法とそのノスタルジーの力を大胆に受け入れた。これは当時、主にヒップホップ界で使われていた手法だった。
マドンナはこの曲の使用許可を得るため、自らABBAに手紙を書いて許諾を求めたという。

「Hung Up」のプロダクションは、楽しくありながらも細部まで緻密。曲の冒頭から一貫して高まっていくような緊張感があり、それをきらめくシンセサウンドがやさしく包み込む。
享楽と切なさの絶妙なバランスがあり、感情のもつれをダンスで昇華するという理想的な構造がそこにあった。
このバランス感覚こそが、後に続く音楽のスタンダードを形成していく。

ポップ音楽の方向性を変えた瞬間

感情的な歌詞とダンスを基調としたマキシマリズム(過剰性)を組み合わせたことで、マドンナはポップミュージックの方向性と期待値を大きく変えた。
その後、「Hung Up」に影響を受けたと思われる音楽が続々と登場する。特に、ユーロディスコの復興を象徴するアーティストたちの間で顕著だった。

ロビンの「Dancing On My Own」は、「Hung Up」の直接的な後継曲といえる。
失恋の痛みをクラブのフロアで歌い、シンセサウンドでその脆さを覆い隠すという構図は、まさにマドンナのアイコニックな手法の継承である。

それからさらに10年後、デュア・リパの「Future Nostalgia」も、マドンナが築いたディスコ復興の系譜に連なる作品だ。よりポップ寄りではあるが、明らかに同じルーツを持っている。
「Future Nostalgia(未来のノスタルジア)」というタイトル自体が、マドンナのように「過去の栄光を讃えながら未来を描く」という再発明の哲学を体現している。

デュア・リパは、豊かな音のテクスチャーと近未来的なグルーヴ感で独自の強みを見出した。
マドンナほどの尖りはないかもしれないが、ダンス・ポップは今もチャートで健在であり、衰える気配はまったくない。

いまも輝き続ける「Hung Up」

「Hung Up」は、リリースから20年が経った今もエネルギーに満ちあふれている。
これは、「自分の音楽的直感を信じ、ただ楽しむことの大切さ」を教えてくれたマスターピースだった。
そして、それがマドンナの10枚目のアルバムに収録されていたという事実は、彼女のキャリアの持続力と文化的影響力を証明するものだ。

マドンナは常に音楽によるカタルシス(心の浄化)を本能的に理解しており、「Hung Up」のDNAと、そのディスコの系譜は、今日のダンスフロアでもなお支配的だ。
デュア・リパのようなアーティストがチャートの頂点に立つ今、その血脈はしっかりと受け継がれている。

モダン・ポップの風景において、「Hung Up」は単なるダンス・チューンの再興にとどまらず、享楽的勝利の新たな時代の幕開けとなった。
そしてその余韻は、今もなお色濃く響き続けているのである。

https://collider.com/madonna-hung-up-sampled-abba-gimme-gimme-gimme/

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