体験型エンターテインメントはゴールドラッシュ状態だが

体験型エンターテインメントはゴールドラッシュ状態だが

商業的成功はまだ不確実

ロンドンで『ハンガー・ゲーム』の没入型ショーが開幕する中、
プロデューサーたちは“確実に稼げる”フランチャイズに頼ろうとしているが、その結果はまちまちだ。

来週、世界的な書籍および映画シリーズ『ハンガー・ゲーム』の史上初となる舞台版がロンドンで開幕する。
最大で200ポンドのチケットを支払うファンには、「エレクトリック(電撃的)」で「没入感あふれる」体験が約束されている。

この公演は、カナリー・ワーフに新設された1,200席の専用劇場「トルバドゥール(Troubadour)」で上演される。
作品には、ハリウッドの名優ジョン・マルコヴィッチ
がスクリーン越しに登場し、若者同士が死闘を繰り広げるテレビ番組を統括する悪名高い独裁者、スノー大統領を演じる。
この公演は、人気フランチャイズを活用し、急増する「体験型エンターテインメント」需要に乗じようとする新企画ラッシュの最新例である。

🔸 体験型エンタメの“黄金時代”

脱出ゲーム、斧投げイベント、スリープオーバー(お泊まりパーティー)から、
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の世界を再現したSecret Cinemaのオリンピックパーク takeover
そして大ヒット中の『ABBA Voyage』に至るまで、
「ちょっと変わった夜の体験」への需要はすでに確立している。

最近では、『マインクラフト』『ジュラシック・ワールド』『イカゲーム』などをテーマにしたポップアップ体験も登場している。

だが、多額の資金がこの分野に流れ込む一方で、企業は**確実に客を呼べる知的財産(IP)**に依存する傾向を強めており、その結果は一様ではない。

*大成功を収めている『ABBAヴォヤージ(Abba Voyage)』——バンドメンバーのデジタル版(ホログラム)が出演している。
写真:ヨハン・ペルソン/Abba Voyage/PA

💬 「知名度のあるIPなしでは難しい」

「我々は多くの没入型体験を研究してきました」と語るのは、ハリウッドの投資家チップ・シーリグ(Chip Seelig)
彼は、2017年のヒット映画『グレイテスト・ショーマン』に着想を得たロンドンの体験型ショー『カム・アライヴ!(Come Alive!)』を支援している。

「たとえ一流の知的財産を使っても成功は保証されません。
しかし、世界的に認知されたIPがないと観客を集めるのは非常に難しい。
だからこそ、IPは成功の鍵だと考えています」。

シーリグ率いるTSGエンターテインメントは、ハリウッド版『グレイテスト・ショーマン』を共同製作した会社でもある。
彼は映画の公開前からリアル体験化の可能性に目をつけ、20世紀フォックス(現ディズニー)と権利契約を結んでいた。

そのディズニー自身も、来春ブリストル・ヒッポドローム劇場で『グレイテスト・ショーマン』の新たな舞台版を世界初演する予定だ。

💸 成功作もあるが、採算は厳しい

『カム・アライヴ!』は成功を収めており、かつて「BBC Earth Experience」が開催された会場での公演を1年間延長することが決定している。
しかし、現実世界での体験を再現するには膨大なコストがかかるため、商業的成功は決して保証されていない。

伝統的な劇場界の苦境は、急成長する没入型エンタメ業界にとっても警告の物語となっている。

🎭 ブロードウェイの教訓

『ニューヨーク・タイムズ』の最近の分析によれば、
昨シーズンに開幕した商業ミュージカル18作品のうち、利益を出しているものは1本もない
そのうち3作品は制作費が2,000万ドル(約30億円)を超えながら、わずか4カ月以内に閉幕した。

さらに、パンデミック以降に登場した新作46本のうち、
既存IPに基づかないオリジナル作品で黒字化したのはわずか3本にとどまっている。

⚠️ 「体験バブル」が生む低品質イベント

体験型エンタメ業界はまだ若く、
“金鉱を掘り当てよう”という熱狂の中で、期待外れのイベントも急増している。

2023年、米国デトロイトで開催された非公式『ブリジャートン』テーマボールでは、
150〜1,000ドルのチケットを購入した来場者が、床に座ってキットカットを食べながら一本のポールダンサーを見るだけという惨状となり、SNSで炎上した。

また、グラスゴーで行われた“ウィリー・ウォンカ体験イベント”も大失敗。
「チョコレートをあらゆる形で祝う」と宣伝されていたが、内容があまりに貧弱で、
数百ポンドを払った家族連れが怒り、警察が出動、イベントは中止に追い込まれた。

🎤 エルヴィスの「AIショー」にも酷評

最近批判を浴びたのは、ロンドンのエクセルセンターで開催された『エルヴィス・エボリューション(Elvis Evolution)』。
チケットは75〜300ポンドで販売され、「AIとホログラムによるライブ体験」と宣伝されていた。

しかし、実際にはAIで映像を拡張しただけで、当初の「等身大のデジタル・エルヴィスが登場する」という約束は実現せず。
主催のLayered Reality社は「販売時にはホログラム演出がない旨を明確にしていた」と弁明し、「来場者の称賛に圧倒された」と述べた。

ところが、ある来場者は「まったくひどかった」、
VIPチケット購入者は「最初から最後まで完全な混乱だった」と語っている。
一方で「すべての瞬間を楽しんだ」との声もあり、評価は真っ二つに割れた。
『テレグラフ』紙は星1つ、『タイムアウト』誌も星3つを与えつつ「ブーイングが目立った」と記している。

🧩 業界分析:「AIの誇張と混乱が蔓延」

「没入型アートとエンターテインメント業界は、まだ崩壊には程遠い」
——Gensler Research Instituteが2025年の『Immersive Entertainment & Culture Industry Report』でそう記している。

「しかし、低品質の体験が氾濫することで市場に混乱が生じており、
AI生成のイメージや誇張された広告コピーが非現実的な期待を煽っている」。

Genslerによれば、没入型エンタメ市場の世界規模は2025年に980億ポンド(約19兆円)
2030年には3,510億ポンド(約68兆円)に達すると予測されている。

🧠 「クリスタル・メイズ」体験が世界へ

1990年代のカルト的人気TV番組『クリスタル・メイズ(The Crystal Maze)』をもとに、
ロンドンとマンチェスターでライブ体験を展開するリトル・ライオン・エンターテインメント(LLE)は、
番組製作会社バニジャイ(Banijay)と10年間のライセンス延長契約
を締結した。

「これは単なる拡張ではなく、世界的な冒険の始まりです」
— LLE創業者兼CEOのトム・リオネッティ=マグワイア(Tom Lionetti-Maguire)

🎬 「シークレット・シネマ」が示す未来

ロンドンを拠点とするシークレット・シネマ(Secret Cinema)は、
『スター・ウォーズ』『ストレンジャー・シングス』『007』などの世界をテーマにした体験型イベントを手掛け、
没入型エンタメのパイオニア的存在となった。

そしていま、ハリウッドの大物プロデューサーアリ・エマニュエル(Ari Emanuel)が、
その親会社の買収を進めていることが明らかになった。
彼はWWE(プロレス)やUFC
を運営する企業を率いており、
今回の買収交渉を通じて、体験型エンタメへの本格参入を狙っている。

エマニュエルのグローバルイベント会社は、米国のデジタルチケット企業TodayTix Groupと契約目前。
TodayTixは2022年、1億ドルでシークレット・シネマの親会社を買収している。

💬 「質を見極めない乱発が信頼を損なう」

TodayTix共同創業者のメリット・ベアー(Merritt Baer)は語る。

「昨年は、新作を出すよりも観客が何を求めているかを見直す時期にしました。
多くの会社が“とりあえずやってみる”戦略を取っていますが、
失敗したときに観客の信頼を損ない、業界全体が傷つくのです」。

「シークレット・シネマは高品質なブランドと実績を持っており、
私たちはその最上位のポジションを維持したい。
今、多くの賢明な人々が“体験こそが未来だ”と気づいています」。

彼はさらにこう付け加える。

「Netflix、Apple、Amazonなどは、家庭で楽しめるコンテンツの質と量を飛躍的に高めました。
だからこそ、ライブ演劇やイベントの制作者も、観客を“リビングルームから連れ出す”ためにレベルを上げる必要があるのです」。

https://www.theguardian.com/business/2025/oct/19/experiential-entertainment-is-having-a-gold-rush-but-commercial-success-is-far-from-certain

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