ABBAのアグネタ・フェルツクグ(Agnetha Fältskog)が好きな曲のひとつに「The Winner Takes It All(ザ・ウィナー)」がある。曲の内容を考えると、意外な選択だ。というのも、この曲はバンドメンバーで元夫のビヨルン・ウルヴァース(Björn Ulvaeus)が、彼女との離婚直後に、その彼女の視点から書いた曲だからだ。歌詞にはこうある――「でも教えて、彼女はあなたにキスするの?私がしていたみたいに」。
もともと曲名は 「The Story of My Life(わたしの人生の物語)」 だった。ビヨルンによれば、この曲は離婚に伴う感情について描いたものだという。
「これは離婚の体験についてだけど、フィクションなんだ。僕らの場合、勝者も敗者もいなかった。多くの人は現実そのままだと思っているけど、そうじゃないんだ」。
彼はこの曲のデモを自分で歌い、「多くの人がそれを気に入って『君が歌うべきだ』と言った」という。ビヨルンはこう語っている。
「でも、賢明なやり方を考えたら、当然アグネタが歌うべきだったんだ。スタジオに持って行ったのを覚えているけど、みんな『これは素晴らしい、すごい』と言った。彼女が歌っているのを聴くのは奇妙な気分だった。彼女が歌うときは、女優が何かを演じているように見えたけれど、それでも心に深く迫るものがあった。その後、少し涙が流れたのも覚えている」。
「ザ・ウィナー」の作曲は1980年の夏、ストックホルム郊外ヴィッグショー島にあるビヨルンの別荘で始まった。この曲は1980年にイギリスでチャート1位を獲得し、アメリカでは最高8位に達した。
離婚を描いたABBAの曲はこれだけではない。1976年、メンバーのカップルがまだ別れていなかった頃に発表された「ノウイング・ミー、ノウイング・ユー」は、かつて伴侶と共に暮らした家で孤独に過ごす感覚を映し出している。2011年に再発されたアルバム『スーパー・トゥルーパー』のライナーノーツで、ビヨルンはこう書いている。
「『ノウイング・ミー、ノウイング・ユー』は、“そうなるかもしれない未来”のイメージなんだ。荷物の箱が散らばる空っぽのアパートを誰かが歩き回り、部屋ごとにたくさんの思い出が詰まっている――そんな強いイメージを持った。でも当時は現実に離婚があったわけじゃない。『ザ・ウィナー』はもっと内面的なもので、イメージではなく、純粋に感情についてなんだ」。