現在策定中のEUのAIに関する「行動規範(Code of Practice)」は、出版社とアメリカの大手テック企業の双方から、異なる理由で強い批判を受けています。
*著作権:Vianney Le Caer/2017年 Invision。
その中で、ABBAのメンバーであり、国際著作権団体連盟(CISAC)会長を務めるビヨルン・ウルヴァース氏が、欧州議会の文化・教育委員会で火曜日に行なわれた公聴会に登壇し、次のように述べました:
「私はテクノロジー推進派ですが、今進められている、テック業界主導の提案には懸念を抱いています。これらの提案は、クリエイティブの権利を弱体化させるものです」。
🔍 背景:EUのAI法と行動規範案
ビヨルン氏のこの発言は、近年、出版社や権利保有者などのクリエイティブ業界から相次いで寄せられている懸念の声を後押しする形となりました。
現在EUでは、ChatGPTのような汎用AI(General Purpose AI)を対象とした自主的な「行動規範」の草案が進められており、これがAI法(AI Act)の枠組みの中でどのように位置づけられるかが議論されています。
欧州委員会は、2023年9月に選任した13名の専門家とともに、全体会議やワークショップを通じて約1,000人の関係者から意見を収集してきました。
草案は、AIモデルの提供者がEUのAI法に準拠するための指針となることを目的としていますが、
- 出版社は「著作権との整合性が取れていない」と批判
- 米国テック企業は「制限的すぎて負担が大きい」と反発
という形で、双方から反発が起きています。
🗣️ ビヨルンの発言:「AIの進歩は盗用の上に築くべきではない」
「AIが発展するためには著作権を弱体化させる必要があるという議論は、誤りであり危険です。
AIは盗用の上に築くべきではありません。それは歴史的な原則の放棄に他なりません」。
さらに、彼はこう続けました:
「EUはこれまでクリエイティブな権利の擁護者でした。
しかし今、草案は透明性を求めるクリエイティブ業界の声を無視しているように見えます。
我々が求めているのは、EUがAI規制のリーダーとして立ち続けること。後退してほしくないのです」。
彼は、AI法の実施にあたっては「当初の目的に忠実であるべきだ」とも述べています。
📅 現在のスケジュールと今後の見通し
行動規範の最新版草案は5月初旬に公開予定でしたが、
「意見提出期間を延長してほしい」という多数の要望により、公開は夏前まで延期されています。
なお、AIツールに関するルールは8月2日から段階的に適用開始となります。
🇺🇸 米国政府と大手テックの反応
米国のトランプ政権は、EUのこうしたデジタル規制(Code含む)を“革新の妨げ”だと非難しており、
米国駐EU代表団は今年4月、欧州委員会に対して規範への反対意見を公式に表明しました。
米メタ(Meta)のグローバル政策責任者ジョエル・カプラン氏は、今年2月の時点で「現行の草案には同意できないため、署名はしない」と明言しています。
ただし、欧州委員会AIオフィスの高官は今月、Euronewsに対して「米国企業はむしろ積極的に協議に参加している」とし、「政権交代によって後退している印象はない」と述べています。
📜 AI法そのものについて
AI法(AI Act)は、AIツールを社会に与えるリスクに応じて分類・規制するEUの包括的法制度であり、2023年8月に発効済み。
今後数年にわたって段階的に適用され、2027年には完全施行となる予定です。
欧州委員会は、この行動規範をAI法の一部として正式化する可能性も検討しており、その場合は「実施法(implementing act)」という形が取られます。
🎤 エルトン・ジョンも著作権軽視に怒り
ちなみに、英国政府がAI開発企業を著作権法の適用外とする方針を示していることについて、
エルトン・ジョンは最近、「政府は完全な負け組(absolute losers)」「裏切られたと感じている」と強く批判しています。