タイムトラベル(っぽい)コメディ『マイ・オールド・アス』(※)では、18歳のエリオット(メイジー・ステラ)が大量のマッシュルームを摂取してしまい、未来の自分(オーブリー・プラザ演じる)と対面する羽目になります。未来のエリオットは若い自分にいくつかの知恵を授けます。主に「家族との時間をもっと大切にして、少しペースを落とせ」といった漠然としたアドバイスです。若いエリオットはそれを聞いて役立てようとします。
*グラフィック制作:ペトラナ・ラデュロヴィッチ/Polygon 、出典画像:Amazon MGM Studios/Playtone, Littlestar/Legendary Entertainment
しかし、未来のエリオットにはさらに具体的な警告があります。それは、「夏の間、エリオットの家族経営の農場で働く可愛い男の子、チャド(パーシー・ハインズ・ホワイト)に恋をしてはいけない」というものです。
若いエリオットがこの警告を無視したことが、この映画の最も魅力的なテーマとなります。そしてそのテーマは、映画史に残る傑作『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』とも共通しています。(本当です!)
*エリオット(メイジー・ステラ)とキャス(マリア・ディジア) 『MY OLD ASS』より 、写真:マーニ・グロスマン/Prime Video 、© AMAZON CONTENT SERVICES LLC 、画像提供:Amazon MGM Studios 。
◆若いエリオットの選択と葛藤
当初、若いエリオットはチャドのことを気にしないつもりでした。なぜなら、これまで彼女は女性にしか惹かれたことがなかったからです。しかし、チャドと知り合ううちに彼に夢中になり、自分のアイデンティティについて疑問を抱くようになります。それでも未来のエリオットは警告を続けます。「チャドに恋をしてはいけない!」と。若いエリオットは、チャドが何か裏表のある嫌な奴なのではないかと疑いますが、ついに未来の自分と対決します。そして、未来のエリオットが明かしたのは、「チャドが若くして死んでしまい、自分の心をズタズタにした」という事実でした。
この瞬間、脚本家兼監督のメーガン・パークは最も興味深いメッセージを掘り下げます。未来のエリオットが、チャドの死がどれほど自分に影響を与えたかを熱く語った後、若いエリオットは「ノー」と答えます。彼女は、「世界を恐れるあまり人生を変えるようなことをすれば、そもそも生きている意味がない」と未来の自分に伝えます。だからこそ、失恋の痛みを受け入れると決めます。それは誰かを深く知り、愛するという貴重な経験と引き換えなのです。
◆タイムトラベルと自己発見
タイムトラベルの物語では、しばしばキャラクターの年長バージョンが若い自分に助言を与えたり、将来のトラウマを回避させようと干渉したりします。しかし『マイ・オールド・アス』はそのアイデアをひねり、未来のエリオットが自らの「若くて愚かな」過去の自分から何かを学ぶという展開を見せます。このメッセージは、タイムトラベルなしでも学べるものです。そしてここで、『マンマ・ミーア!』との共通点が浮かび上がります。
*画像提供:Playtone/Littlestar/Legendary Entertainment 、『マンマ・ミーア!』のメッセージと祝祭。
『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』のきらびやかなフィナーレでは、登場人物の若いバージョンと年老いたバージョンが一堂に会して一緒にダンスする大団円が描かれます。この作品はタイムトラベルの映画ではありませんが、回想シーンと現在を行き来し、自由奔放なドナ・シェリダン(リリー・ジェームズ)が忘れられない夏の間に3人の父親候補とどうやって出会ったのかを描いています。観客は登場人物が「若くて愚かだった頃」を目の当たりにしますが、同時にその恐れを知らない生き方に感嘆せずにはいられません。
『マイ・オールド・アス』も『マンマ・ミーア!2』も同じメッセージで締めくくられます。「若い頃の自分も、今の自分の一部であり、これからもそうであり続ける」ということです。人生においてやり直したいことや避けたい結果があったとしても、「若くて愚かだった頃の自分」から学べる知恵があるのです。特に、その若い自分が今の自分を形作った理由そのものだからです。
『マイ・オールド・アス』では、エリオットが未来の自分にその教訓を直接語ることで、メッセージがより具体的で実感しやすい形になっています。一方、『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』では、それがさりげなく織り込まれています。その「さりげなさ」の一部は、若い自分と年を取った自分が一緒に踊るというダンスパーティーに表現されています。このエンディングは過去と現在を祝うものであり、それがどうして可能なのかは説明されません。しかし、それでいいのです。ある意味、私たちもみんな「若い頃の自分」と一緒に踊っているのですから。
『マイ・オールド・アス』はPrime Videoで、『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』はPeacockで配信中です。
※『マイ・オールド・アス (My Old Ass)』:タイムトラベルの要素を含んだコメディ映画で、若い頃の自分と年老いた自分の出会いを通して人生の選択や成長を描いた作品です。この映画は、軽快なユーモアの中に深いテーマを織り交ぜています。
あらすじ
物語の主人公は18歳のエリオット(メイジー・ステラ)。ある日、彼女は大量のマッシュルームを摂取して幻覚状態になり、未来の自分(オーブリー・プラザ)と対面します。未来のエリオットは、若い自分にいくつかのアドバイスを与えますが、その中で特に重要な警告をします。それは、「チャドという少年に恋をしてはいけない」というもの。しかし、若いエリオットはその警告を無視し、彼と関わることで自身のアイデンティティや人生の意味を問い直すことになります。
テーマ
自己発見と成長: 若いエリオットが未来の自分と対話することで、過去の選択や将来への不安をどう受け止めるかが描かれています。
愛と喪失: エリオットは失恋や心の痛みを恐れず、人生を全力で生きる価値を見出します。
若さの価値: 「若くて愚かな自分」に学べることがあるというメッセージが込められています。
キャスト
メイジー・ステラ: 18歳のエリオット役。純粋で未熟な若い主人公を演じます。
オーブリー・プラザ: 未来のエリオット役。年を重ねて冷静でありながらも、自分の若さを見直すキャラクター。
パーシー・ハインズ・ホワイト: チャド役。エリオットの家族経営の農場で働く夏の恋の相手。
マリア・ディジア: キャス役。エリオットの家族の一員。
制作と公開
脚本・監督: メーガン・パーク
感動的な物語とユーモアを融合させる手腕で知られています。
配信: Prime Videoで視聴可能。
評価と話題性
『マイ・オールド・アス』は、単なるコメディ映画ではなく、観客に人生の選択や後悔について深く考えさせる作品として評価されています。特に、『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』と共通するテーマである「若い頃の自分との対話」が注目されています。
https://www.polygon.com/movies/476469/my-old-ass-ending-mamma-mia-2