🎭 『CHESS』主演リア・ミシェル、アーロン・トヴェイト、ニコラス・クリストファーが語る――悪名高いブロードウェイの失敗作をよみがえらせる挑戦
*リチャード・フィブス
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もし1980年代のミュージカル『チェス(Chess)』について何か聞いたことがあるとすれば、おそらくこうだろう。
――「曲はキャッチーだが、ストーリーは意味不明」。
その印象をリア・ミシェル、アーロン・トヴェイト、ニコラス・クリストファーの3人――近くブロードウェイで上演されるリバイバル版の主演トリオ――に伝えると、
ミシェルは無表情で冗談めかしてこう言った。
「どういう意味?そんな話、聞いたことないわ」。
3人は稽古中の昼休みに集まっていたが、思わず吹き出して笑う。
ミシェルは「私は、簡単すぎるものは好きじゃないの」と続ける。
彼らはもちろん、挑戦の大きさをよく理解している。
新しい解釈による『CHESS』は今月、ニューヨークのインペリアル劇場(Imperial Theatre)で幕を開ける。
🎼 過去の失敗作を再生するリスク
率直に言えば、『CHESS』は1988年のアメリカ初演時、ブロードウェイではうまくいかなかった。
それ以来、熱狂的なカルト的人気を得てきたとはいえ、改めて上演するのはリスクの高い試みだ。
なにしろ今のブロードウェイは『ウィキッド』や『マンマ・ミーア!』のような長期公演・ブランド力のある作品が主流だからだ。
だが今回のプロデューサー陣は、人気と実力を兼ね備えた3人の主演俳優に賭けている。
リア・ミシェルは2022年の『ファニー・ガール』再演で再び脚光を浴び、
アーロン・トヴェイトは『ムーラン・ルージュ!』でトニー賞を受賞、
そしてニコラス・クリストファーは『ハミルトン』や『スウィーニー・トッド』などで頭角を現している。
さらに、脚本を大幅に刷新した新バージョンが、ブロードウェイ再生への鍵になる。
♟ クリストファー:「音楽は最高。あとは物語を…」
クリストファーはこう語る。
「『CHESS』はずっと、“音楽は素晴らしいけれど、物語が…”って言われてきました」。
するとミシェルがすかさず補う。
「噛み合わないのよね(Match)」。
「そう、ぴったり合わなかった。でも、そのパズルを解くという挑戦こそがワクワクするんだ。」と彼は続けた。
😄 3人の関係性と稽古場の雰囲気
そう聞くと難解な作業のように思えるが、夏のワークショップを通して親密になった3人は、まったく気負っていない。
インタビュー中の彼らは自信に満ち、真摯でありながらユーモアを忘れない“ザ・シアターキッズ”の雰囲気を漂わせる。
稽古中の新しい曲の覚え方の話になると、ミシェルが冗談を飛ばす。
「私、字が読めないの。だから2人が助けてくれるの」。
(彼女が「読み書きできない」という根拠のないネット上の噂を自らネタにしている)。
すかさずトヴェイトが彼女をかばう。
「いや、もちろん彼女は読めるよ!」。
そして、ミシェルから学んだ記憶術を説明する。
「彼女がノートに大文字をいっぱい書いているのを見たんだ。3つの文を覚えるとき、各単語の頭文字だけを書いていくんだって。
俺も真似したら、セリフを覚える時間が半分になったよ」。
ミシェルは笑いながら言う。
「そう!アーロンに“読み方”を教えてるの!」(わざと発音を強調して)。
「でもこれ、助けになってるのか、それとも逆効果なのか分からないけどね」。
🌍 作品の背景と再挑戦の意義
『CHESS』は冷戦時代を舞台に、
ABBAのベニー・アンダーソンとビヨルン・ウルヴァースによる音楽、
ティム・ライス(『エビータ』の作詞家)の歌詞で構成されている。
物語は、アメリカ人(トヴェイト)とソ連人(クリストファー)、
2人のCHESSのグランドマスターが国の威信と愛を懸けて戦う中、
その間で揺れる女性(ミシェル)を描く。
作品は1986年にウエストエンドで好評を博したが、
1988年にリチャード・ネルソンが脚本を手がけたブロードウェイ版は批評的に冷遇され、わずか2か月で閉幕した。
今回の再演は、トニー賞受賞演出家マイケル・メイヤー(Michael Mayer)が指揮を執り、
『ドープシック』のクリエイターであるダニー・ストロング(Danny Strong)が新しい脚本を書いた。
メイヤーとストロングは稽古前から主演3人と密に協議を重ねてきたという。
トヴェイトは語る。
「マイケルとダニーは何年もこの作品に取り組んできたんです。
“こうやって演じてほしい”と一方的に言うこともできたのに、彼らは“君たちはどう思う?”と聞いてくれた」。
🌟 “失敗作の再生”という希望
3人がインスピレーションを受けたのは、かつて同じく“失敗作”と呼ばれたスティーヴン・ソンドハイムの『メリリー・ウィー・ロール・アロング』。
この作品は2023年の再演でトニー賞を受賞し、見事に名誉を回復した。
ミシェル自身も『ファニー・ガール』でビーニー・フェルドスタインの後任としてファニー・ブライス役を引き継ぎ、
1964年にバーブラ・ストライサンドが初演して以来の大成功を収めている。
その経験が、今回の挑戦にも自信を与えたという。
「『ファニー・ガール』の初稽古の時、マイケルに言ったの。“やるなら自分のやり方でやりたい”って。
それで『I’m the Greatest Star』を歌いながら、跳んだり登ったり跳ね回ったりしたの(笑)。
俳優と演出家の間に信頼関係があると、特別なものが生まれるの。今回もそれに近いわ」。
🕊 ミシェル:「初演は時代を先取りしすぎたのかも」
ミシェルは、1988年当時の『CHESS』が時代を先取りしすぎたと考えている。
「ベルリンの壁が崩壊する直前に初演したから、観客は“分断”ではなく“融和”の物語を求めていたの。
政治的に大きな変化が起きていて、世界が平和へ向かう希望に包まれていた時代だったのよ」。
💣 トヴェイト:「今の世界は、むしろ当時よりリアルに感じる」
トヴェイトは、今だからこそこの物語がより“現実味”を帯びると語る。
「この芝居は、2つの超大国が第3次世界大戦を始めてお互いに核を落とすのではないかと心配されていた時代を描いている。
残念だけど、今の方が当時よりもその状況に近いのかもしれない」。
🎵 ABBAの名曲と現代への警鐘
観客はもちろん、ABBAの名曲群に惹かれて劇場に足を運ぶだろう。
だがトヴェイトは、作品の深いメッセージも決して見逃されないと信じている。
「みんな素晴らしいポップスやロックの曲を聴きに来るだろうけど、
結果的に“今の世界で何が起きているか”を考えさせられると思う」。
😄 「でもね、『CHESS』は深刻すぎる夜じゃない」
もしそれが“重苦しい”と思われても、3人は安心してほしいという。
「『CHESS』って“とてもシリアスな作品”だと思われがちだけど、実はすごくユーモラスなんだよ」。
――ニコラス・クリストファー
💫 悲劇と笑い、愛と政治、そしてABBAの旋律。
ブロードウェイの“幻の傑作”が、2025年、再び命を吹き込まれる。