マイケル・メイヤーは、スターの資質を見抜く目を持っている。
*『CHESS』
フローレンス・ヴァッシー役の リア・ミシェル、演出家の マイケル・メイヤー、アナトリー・セルギエフスキー役の ニコラス・クリストファー。
写真:マシュー・マーフィー/ジェニー・アンダーソン/マシュー・マーフィー
彼は現代演劇界でも屈指の才能あるパフォーマーたちと仕事をしてきた。たとえば、『スルーリー・モダン・ミリー』でのサットン・フォスター、『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』でのクリスティン・チェノウェス、そして『スプリング・アウェイクニング』でのジョナサン・グロフとリアム・ギャラガー・ジュニアなどだ。
彼は、『ワーニャ伯父さん』のような古典から、『アメリカン・イディオット』のような新作ミュージカル、さらには『ファニー・ガール』『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』といったリバイバル作品、そして最新作の『CHESS』まで、実に幅広いジャンルを手がけてきた。
『CHESS』は1988年にブロードウェイで初演され、同年中に上演回数100回未満で幕を閉じた作品だ。しかし今、その作品が、メイヤーと作品の力を信じた制作チームによって、新たな命を得てブロードウェイに戻ってきている。音楽を手がけたのは、ABBAのベニー・アンダーソンとビヨルン・ウルヴァースである。
だが最大の課題は、「どうすればこの作品を成立させられるか」を見つけることだったと、メイヤーは語る。なぜなら、この作品は過去に「完全にうまくいったことがなかった」からだ。
2025年の観客に向けて最善の形で上演するために必要だったのは、「時代を超えて通用する要素を祝福し、それを邪魔しないこと。そして同時に、新しい物語をどう語るかを見つけること」だったという。メイヤーは米誌『Out』に対し、今回の『CHESS』は50%が新しく、50%がオリジナルを保存したものだと語っている。
このプロダクションは、現在のアメリカ社会が抱える緊張感の高い政治状況の中で上演される。その空気感は、国家による対立と操作を描く作品の前提とも強く共鳴している。
メイヤーは、この刷新版『CHESS』にはオールスター級のキャストが必要だと考えていた。本作は、世界トップクラスのチェスプレイヤー3人による愛の三角関係を描いている。
主人公フレディ・トランパーを演じるのは、ブロードウェイで最も引っ張りだこの男性俳優の一人、アーロン・トヴェイト。
彼のセコンド(あるいはCHESSコーチ/アシスタント)であるフローレンス・ヴァッシー役には、圧倒的な歌唱力を誇る**リア・ミシェル。
そして不動の三人目として、アナトリー・セルギエフスキー役を務めるのが、卓越した才能を持つニコラス・クリストファーだ。
2人の男性は、それぞれの政府に駒として利用されていることも知らぬまま、人生を賭けた一局を戦い、同時に同じ女性を巡って争っている。こうしてプロダクション全体が、まさに巨大なCHESSの一局となっていく。
*ブロードウェイ・ミュージカル『CHESS』に出演する
アーロン・トヴェイト。
写真:マシュー・マーフィー
メイヤーと新しい脚本を担当するダニー・ストロングは、このプロジェクトに約10年を費やしてきた。最初に作品について話し始めたのは10年前で、本格的に動き出したのは8年前だという。その間、ワークショップ、リーディング、コンサート形式の公演を重ね、ついにブロードウェイ上演の座を勝ち取った。
キャスティングの段階になると、メイヤーはすぐに動いた。彼はミシェルが14歳だった頃、2000年代初頭の『スプリング・アウェイクニング』で知り合って以来、長年交流を続けている。『ファニー・ガール』をブロードウェイで再演した際には彼女を主役に起用し、その時期に『CHESS』の話を持ちかけた。
ミシェルはこのアイデアを気に入ったが、まずは出産を優先したいと考えた。そして息子が1歳になった頃、いよいよ稽古が始まった。
クリストファーは数年前からメイヤーの注目株だった。彼が『スウィーニー・トッド』最新リバイバルでの演技を観た後、オフ・ブロードウェイ版『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』に起用した。
「去年の夏、ニックにアナトリー役を読んでもらったんだけど、あまりにも美しかった。もしブロードウェイで『CHESS』をやれる機会が来たら、ぜひ彼にやってほしいと確信したんだ」。
*ブロードウェイ・ミュージカル『CHESS』に出演する
リア・ミシェル と ニコラス・クリストファー。
写真:マシュー・マーフィー
実は、トランパー役にアーロン・トヴェイトを起用することを提案したのはミシェルだった。
「彼なら曲をとんでもなく歌いこなせるのは分かっていた」とメイヤーは言う。
「でも面白いことに、彼がこういうタイプの役を演じるのを見たことがなかった。脚本を読んだあと、素晴らしいランチを一緒にして、彼をコンフォートゾーンの外に押し出したい、という話をしたんだ」。
今年初め、『ニューヨーク・タイムズ』は、ブロードウェイ・ミュージカルが「苦境に立たされている」と報じた。前シーズンに開幕した18作品のミュージカルのうち、黒字になったものは一つもなかったという。
『ブープ!』『スマッシュ』『タミー・フェイ』などは、いずれも制作費が2,000万ドル以上に達したが、4か月以上続かなかった。要因は複数あるが、ひとつはコロナ禍以前ほど観客動員が戻っていないことだ。現在の市場では、ブロードウェイ作品は逆流を泳いでいるような状況にある。
ブロードウェイで20作以上を手がけてきたメイヤーは、「成功したリバイバルとは何か?」――投資回収か、ファンの満足か、それとも批評家の評価か――という問いを投げかけられた。
彼の答えはこうだ。
「1995年以来、自分が手がけた作品のレビューは一つも読んでいない。絶対に読まないし、見たくもないし、聞きたくもない」。
「批評家が何を言うかなんて、正直どうでもいい。チケットを売る助けになるなら別だけど、ここは商業の世界だからね」。
さらに彼は続ける。
「ブロードウェイって結局は“尻と座席”の世界なんだ。どうしようもない。それが、たまたま自分が生きることになった世界なんだよ」。
*ブロードウェイ・ミュージカル『CHESS』に出演する
アーロン・トヴェイト と リア・ミシェル。
写真:マシュー・マーフィー
メイヤーにとって、真の成功とは「観客にとって作品が機能しているかどうか」だという。
「私は観客と、彼らがどんな体験をしているかを大切にしている」と彼は語る。
「演出家というのは、俳優やデザイナー、音楽家に指示を出しているだけじゃない。本当に演出しているのは観客なんだ。
私の一番の仕事は、観客に“どこを見るか”“何を聴くか”“どう受け取るか”を示すこと。そのためには、観客にちゃんと参加してもらわなきゃいけない」。
『CHESS』は現在、ブロードウェイのImperial Theatreで上演中。
詳細は公式サイト chessbroadway.com を参照。
https://www.out.com/theater/michael-mayer-director-chess-broadway




