『CHESS:ザ・ミュージカル』は、想像する以上に「CHESSそのもの」なミュージカルだった

『CHESS:ザ・ミュージカル』は、あなたが想像する以上に「CHESSそのもの」なミュージカルだった

*ゲッティイメージズ経由:ブルース・グリカス/ワイヤーイメージ

数か月前、友人のジュリアから私の元に、元ミュージカルオタクなら誰もが切望するようなメッセージが届いた。
彼女が言うには、ブロードウェイのミュージカルを観に行くチケットが1枚余っているというのだ。
その演目とは──リア・ミシェル主演の『Chess: The Musical』。行きたい?
もちろん私はこう返した。「はい、行きますとも、行かせてください!!」。

私はCHESSというゲームについてほとんど知らなかったし、『Chess: The Musical』についてはさらに知らなかった。けれど本当の目的はリア・ミシェルだ。
誰が、文字が読めないという噂のある(でも歌は最強の)ディーヴァが目の前で歌ってくれる機会を逃すだろう?
『CHESS』のスコアはABBAのベニー・アンダーソンとビヨルン・ウルヴァースが書いたと知っていたし、彼らが「本物のヒット曲」を書ける人たちだということも当然知っていた。
高校のときに聞いた「アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウェル(I Know Him So Wel)l」や「ヘヴン・ヘルプ・マイ・ハート(Heaven Help My Heart)」など、その“バンガー”の一部には馴染みもあった。そして、このミュージカルが“一応”CHESSについての作品だということも。

だが私は、この作品がどれほどCHESSそのものに満ちているか──文字通りにも比喩的にも──まったく想像していなかった。

■ CHESSがテーマであることは、舞台セットの段階で完全に明白

もしもあなたが「『CHESS』はそこまでCHESSそのものではないはず」と思っていたなら、セットが瞬時にその考えを打ち砕く。
すべてのシーンは、CHESSの駒(ナイト、ルーク、ポーンなど)が延々と並ぶ列柱の前で繰り広げられる。
さらに、大きなネオンサインがオーケストラの上に輝いている──そう、「CHESS」の文字である。

そしてオープニング曲は、その名も「チェスの物語(The Story of Chess)」。
独唱者たちが“本当に文字通り”CHESSの歴史を説明してくれる。
彼らはこう歌う。「初期のCHESSについて知られていることは多くない/あいまいな報告がある程度だ」。ためになる!
さらに後半ではこうだ。「CHESSの精神とその迅速さは、ヨーロッパ全土の重要な地へと素早く広まった」。

■ そして物語は1979年へ──アメリカとソ連の“セクシー極まりない”チェスチャンピオンたちが登場

観客が偉大なゲームの由緒ある起源を理解したところで、物語は1979年に放り込まれる。
紹介されるのは、セクシーで双極性障害を抱えたアメリカの世界チャンピオン、フレディ・トランパー(アーロン・トベイト)と、そのセクシーなソ連のライバル、アナトリー・セルギエフスキー(ニコラス・クリストファー)。

フレディは嫌な奴に見えるが、それは12歳のときに父親が家族を捨てたからだ。
この事実は曲の途中で突然明かされ、観客の同情を誘うために書かれたことは明白なのだが……残念ながら、私は笑ってしまった。

一方アナトリーは立派な男に見える。ただし欠点もある──もしアメリカとの大一番で負ければ、ソ連に殺されるという点だ。
そして彼は妻子を捨ててリア・ミシェルのもとへ走る。
ミュージカルはこれを、アメリカ的な“愛を選び、共産主義的な妻の同調を拒む”という美徳として描いている(らしい)。

アーロン・トベイト、リア・ミシェル、ニコラス・クリストファー。
写真:ブルース・グリカス(ワイヤーイメージ)/ゲッティイメージズ

■ 物語の中心にいるのは、フローレンス・ヴァッシー(リア・ミシェル)

彼女はかつてアナトリーを愛し、のちにフレディの恋人兼「セコンド(補佐役)」となり、最終的にはまたアナトリーとロマンティックに絡む。
そのベッドは恐ろしく“ロシア的”だった。ファベルジェの卵がヘッドボードの上にあった気がする。

“セコンド”の概念について、CHESSの起源を説明するよりもっとちゃんと解説すべきだったと思うが、そんな時間はなかった──なぜならまだCHESSが山ほど残っているからだ。

■ そして最大の失望:舞台上での「CHESS対局」

フレディとアナトリーが舞台でCHESSをする場面は、驚くほど退屈だ。
まず、CHESS盤がない。駒もない。
代わりに、2人はマイクの前に立ち、漫才師のように手を交互にチェスの指し手を読み上げるだけなのだ。

「ナイトd5」
「ビショップa5」

これは実際のCHESSよりつまらない。
そして決まって、どちらかが父親との問題にまつわる啓示に襲われ、突然歌い出す。

■ クライマックスのCHESS対決──光る巨大グリッドの意味とは?

最後の対局では、豪華な光る格子(グリッド)が降りてきて2人を囲む。
恐らく「CHESS盤の中にいる」ように見せたかったのだろう。
だがその装置は曲の半ばで消え、二度と登場しなかった。

一体何の意味があったのだ?
CHESSが面白くなったか? いや。
むしろ、跳ね回るコーラスがぶつかりそうで私はヒヤヒヤした。

コーラスは16人──CHESSの駒の数と同じ。気づきました?
彼らがグリッドの周りで軽やかに舞うのを見ながら、私はこう思った。
「ああ、まさに……CHESS?」。

■ 『CHESS』の本当の問題は“プロットの混乱”と言われてきたが…

『CHESS』は1984年にコンセプトアルバムとしてリリースされ、1986年にウェストエンドで舞台化された。
ロンドンでは成功したが、ブロードウェイでは2か月で閉幕。
以降、多くの再演が“混乱したプロット”を修正しようとしてきた。

だが私が観た限り、混乱はそこまで気にならなかった。
分からなくなったときはいつもこう思ったのだ──

「CHESSが題材なんだから、私が理解できなくても当然」。

■ 最悪の部分は「戦争」の話──CHESSの方がまだマシ

CHESS以外の部分、特に戦争の話が最も退屈だった。
この作品は戦争もチェスの一形態だと主張するのだが、CIAとKGBの男が登場するたび、舞台の活気はゼロになる。

2人の間に妙な性的緊張があるにもかかわらず、彼らの役割は延々と冷戦史を解説すること。
SALT II条約、Able Archer 83演習などを、子ども向けのように説明する。
核戦争の危機というテーマなのに、なぜかCHESSよりもスリルがないのだ。

■ 「CHESS」と「the U.S.」を韻にしがちなミュージカル『CHESS』

『CHESS』はCHESSのダジャレも大好きだ。
「黒と白だけじゃない」
「ギャンビット」
「ポーンのように扱われる」
などなど。

そして極めつけは「エンドゲーム(Endgame)」という曲の冒頭。
16人のコーラスが歴代チェス世界王者の名前を歌い上げ、その写真がパワポで映し出される。

「シュタイニッツ!」(※)
「ラスカー!」(※)
「カパブランカ!」(※)

これこそ『CHESS』が最も『CHESS』らしい瞬間だった。
プロットもキャラクターも冷戦も忘れ、ひたすら実在のCHESS史に没頭する時間。
これぞ、『CHESS』が最もCHESSである瞬間。

■ 最悪中の最悪は「アービター(審判)」というキャラ

アービターはチェス審判であり、ナレーター役も兼ねる。
観客に皮肉混じりで現代的な解説をするのだが、そのジョークが壊滅的に寒い。
RFK Jr. の脳の虫とか、ジョー・バイデンの話とか。
私は彼が“セクシーなチェス男子”の出番を奪うことにもイライラした。

レーガンが大統領になったという発言(冗談ではなく事実)に、観客の1人が歓声を上げたとき、私は“魂が抜ける”のを感じた。

■ そして衝撃のラスト──観客の涙で我に返る

私は俳優たちへの礼儀として必死に笑いを堪えていたのだが、誰も本気でこの作品を受け止めているとは思っていなかった。
だって、あまりにも“CHESS・CHESS”しすぎているから。

しかしラストで、フローレンスが死んだと思っていた父が突如登場し、舞台上で彼女を抱きしめると──
隣にいた裕福そうなゲイの男性の頬に涙が光っているのが見えた。

その瞬間、私は完全に孤独なポーンの気持ちになった。
「もういいからCHESSに戻ろう」と心の中でつぶやいた。

■ 『CHESS』を観るべきか?

お金持ちでない限り、絶対にやめたほうがいい。
でも、たまたまチケットが手に入ったなら──
そしてあなたの心に“キャンプ精神”が生きているなら──
ブロードウェイのインペリアル劇場へ急ぐべきだ。
5月にはおそらく閉幕してしまうだろうから。

これは“史上最高のCHESS・ミュージカル”と呼べるかもしれない作品だ。
歌声は素晴らしく、雰囲気は奇妙で、CHESSは常にそこにあり、そして不可解。

それ以上に、何を望むというのだろう?

※これらは 歴代CHESS世界チャンピオンの名前 をそのまま叫んでいる言葉です。

ミュージカル 『チェス』(Chess) の中で、コーラスがチェスの歴史上の偉大な王者たちを紹介するシーンがあります。そのときに、以下のように名前を歌います。

🔹 「シュタイニッツ!」(Steinitz)

ウィルヘルム・シュタイニッツ
→ 初代CHESS世界チャンピオン(1886年)

チェスの近代的戦略の基礎を築いた人物。

🔹 「ラスカー!」(Lasker)

エマニュエル・ラスカー
→ 第2代世界チャンピオン
在位期間は27年間(史上最長)

数学者であり哲学者でもあった多才な人物。

🔹 「カパブランカ!」(Capablanca)

ホセ・ラウル・カパブランカ
→ 第3代世界チャンピオン
「CHESSのモーツァルト」と呼ばれる天才。

直感的でスピーディーなプレースタイルが特徴。

✔ つまりこのシーンの意味

ミュージカル『CHESS』がCHESSの歴史的偉人たちを讃える場面で、
16人のコーラスが“世界王者”の名前を1人ずつ叫び上げる演出です。

劇中でもっとも“CHESSそのもの”に浸る瞬間と言われています。

https://defector.com/chess-the-musical-broadway-review

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