1979年には、ドナ・サマーはすでに「ディスコの女王」としての地位を不動のものにしていました。
わずか4年間で、「Love to Love You Baby」「Last Dance」「MacArthur Park」「I Feel Love」といったヒット曲を次々と世に送り出し、ダンスフロアを席巻。
その頃、彼女がゲイ・アイコンとして崇められていたことも否定できません。
ロックな夏
そんな彼女が1979年4月に通算7枚目となるスタジオ・アルバムをリリースするにあたって、意外にもロック寄りの楽曲で幕を開けたことに、多くのファンは驚いたかもしれません。
アルバム『Bad Girls』のリードシングルとして発表されたのは、ギターソロに元ドゥービー・ブラザーズ/スティーリー・ダンのジェフ・“スカンク”・バクスターを迎えた「Hot Stuff」。
これまでのディスコ・サウンドとは一線を画し、サマーのハードな一面が強調された1曲です。
とはいえ、彼女はディスコの感性を忘れたわけではありません。
彼女の過去作を手がけたジョルジオ・モロダーと引き続きタッグを組み、ディスコとロックの融合を試みたのです。
かつて「Love to Love You Baby」で官能的な吐息と共にポップ・シーンを席巻したサマーは、今度は**“すぐにでも誰かと熱くなりたい”**という切迫した欲望を歌い上げています。
“Wanna share my love with a warm-blooded lover / Wanna bring a wildman back home”
“Gotta have some hot stuff / Gotta have some love tonight.”
「愛を分かち合いたいの、情熱的な恋人と。野性的な男を家に連れて帰りたいの」
「ホットな相手が必要なの。今夜、愛が欲しいのよ」
――その通り、マダム!
ロックとディスコという意外な化学反応が成功を収めたこの曲「Hot Stuff」は、1979年6月2日(ちょうど46年前の今日)にビルボードHot 100で1位を獲得。
3週にわたり非連続で首位をキープし、トップ10には通算14週間ランクインしました。
そしてそのジャンルの壁を超えた魅力が評価され、「Hot Stuff」は第1回グラミー賞「最優秀女性ロック・ボーカル賞」を受賞。
この年、新設されたばかりの賞でした。
ABBAカダブラ(ABBA-cadabra)
この曲は、ドナ・サマーと同時代を生きたスウェーデンのスーパーグループABBAの耳にも留まりました。
「Hot Stuff」がリリースされた数か月後、ABBAのベニー・アンダーソンとビヨルン・ウルヴァースは、この曲を聴いてインスピレーションを受け、
夜な夜な愛を求める孤独な女性の物語を描いた彼ら自身の曲を作り上げます。
その結果誕生したのが、「ギミー!ギミー!ギミー!」。
ギターのリフやメロディーには、ドナ・サマーの影響が色濃く反映されています。
まさに、ディスコ最終章を彩る女性たちの情熱が、当時の音楽シーンを席巻していたのです。
1979年10月にリリースされた「ギミー!ギミー!ギミー!」は、世界各国のチャートでトップに立ち、ABBAの代表曲のひとつとなりました。
この曲は、2005年にはマドンナが「Hung Up」でサンプリングし、
2018年にはシェールがアルバム『ダンシング・クイーン』でカバーしたことでも知られています。
さらに2020年には、ノルウェーのDJカイゴ(Kygo)が「Hot Stuff」をリミックスし、サマーのオリジナル音源を使用した新バージョンを発表。
そのMVにはNetflixの人気ドラマ『Outer Banks』のチェイス・ストークスとマデリン・クラインが出演し、自転車で走りながらダンスするという、
サマーの原曲の“野性的な歌詞”とは対照的な健全すぎる演出が話題となりました。