エリック・フラー——ABBAが「喜び」を生んだ場所で、彼はその“反対”を録音した

エリック・フラー——ABBAが「喜び」を生んだ場所で、彼はその“反対”を録音した:霧に包まれた啓示『What Is Not』の中へ

ミュージシャンが17年間も姿を消したとき、それは引退を意味するか、あるいは沈黙のすべてを正当化する作品を準備しているかのどちらかだ。
そして今、エリック・フラーが帰ってきた。タイトルは『What Is Not(存在しないもの)』。
この挑発的なタイトルは、こう問いかけてくる——「私たちは“存在しないもの”を聴くことになるのだろうか?」。
“存在の哲学”を歌い上げたABBAが生命の歓びを創造したあのスタジオで、今度は“不在の哲学”が録音されたのだ。
それは皮肉か、それとも計算か?

オスロ出身のアーティスト、エリック・フラーは、その大胆な音楽的アプローチで知られる人物だ。
彼の楽曲は、インディー・ロックとライト・オルタナティブを融合させ、独特のハーモニーで構成されている。
その結果生まれるサウンドは、どこか憂鬱で、深い陰影を帯びたものだ。

アルバム『What Is Not』のリリースに先立ち、フラーはいくつかのシングルを発表し、音楽シーンへの存在感を再び強めていった。
それは同時に、この謎めいた作品への期待を煽るプロローグでもあった。
そして今、ついに『What Is Not』が発表された——率直に言えば、これはまさに“啓示”である。

*写真:ジュリア・マリー・ナグレスタッド撮影

アルバムの音世界は、まるで白黒映画のように展開する。
ジャケットそのものがひとつの芸術声明だ。白いフレームは無限を指し示すと同時に、厳格な境界を描いている。
その内側には、光を失った雲、そして自由に飛ぶ鳥たち。
音が鳴る前から、すでに『What Is Not』の視覚的哲学は形をとっている。

フラーの音楽は、哲学的な宣言と親密な告白の交差点に存在する。
それは聴く者に完全な没入を要求するが、同時に手の届く美しさを保っている。
より一般的な感覚で言えば、『What Is Not』は“完璧な秋のアルバム”だ。
霧が漂い、魅了され、現実が灰色にぼやける夜にふさわしい。

オープニング曲「The Fence」は、すぐにアルバム全体のトーンを決定づける。
オルタナティブ・ロックが実験的なサウンドへと変化し、伸びやかな弦の音、鋭いタッチ、きらめくパーカッションが重なる。
静かで室内楽的な序章は次第に嵐へと変わり、フラーはダイナミクスの妙を駆使し、“単純さ”を多層的な体験へと昇華させていく。

「Rome」は、歴史と未完の記憶が漂う夢のような空間へと聴き手を戻す。
そこではメランコリックなハーモニーが、明確な解釈の試みをやさしく溶かしていく。
この曲でのフラーの歌声は羽のように軽やかで、原点への回帰を描き出す。
ミニマリズムに見えて、その感情のパレットは驚くほど広く、聴く者の数だけ異なる“鏡像”を映す。
それは、聴く人によって形を変える“鏡の歌”だ。

「Wave of Chance」は、柔らかな鍵盤と暗く温かい音像で際立っている。
フラーの声はゆっくりと揺れ、眠りにつく大地と目覚める後悔を描く。
リズムが徐々に高まり、楽曲そのものが“真実”を生み出していくような感覚。
これは軽い催眠のようなトラックであり、聴く者の内面に抵抗を生み出す——フラーは無意識を巧みに操っている。

続く「Fiesta for My Failure」は、意表を突く速いテンポで突入してくる。
リズムとスタイルが入り乱れ、アルバム前半の催眠的な空気を切り裂く。
エフェクトをかけた彼の声は、まるで異次元からの信号のようだ。
ここで彼は新たな側面を見せる——実験への意欲、変化への覚悟。
この曲では、力強いオルタナ・ロックにサックスが溶け込み、グランジ的なボーカルがシューゲイズとノルウェーの氷の風を横切る。
一見、共存し得ない要素が、見事に一体化している。

「Waiting for a Change」では、再び穏やかなリズムに戻る。
囁くようなボーカルが、意識の奥底に忍び寄る。
これは、自己や状況、世界に対する小さな“抗い”のためのオルタナ・ロックだ。

*写真提供:ジュリア・マリー・ナグレスタッド

「Glimmering Dark」は、アルバムの中でも最も複雑な一曲。
ジャジーで、詩的で、美学的。
フラーの声は、ゆったりと展開する旋律とともに身体の隅々まで染み渡る。
サックスは軽やかなパーカッションと霧のようなアンビエントと融合し、現実を越えた音世界をつくり出す。
それは“聴く”というより、“深層意識に浸透する”音楽だ。

最後を飾るタイトル曲「What Is Not」は、7分33秒にも及ぶ大作であり、アルバムの核心そのもの。
濃い霧の中に沈むような感覚、肩にのしかかる思考の重さ。
ゆっくりと揺れる鍵盤のイントロ、高音が遠くで反響しながら少しずつ大気を満たしていく。
やがてフラーのボーカルが入る瞬間、すべてが変わる。
霧の中に一筋の希望の光が差し込むのだ。
その旋律は次第に明るさを帯び、感情的なギターが加わる。
この曲こそアルバムの頂点であり、哲学的な問い「存在しないものとは何か(what is that which is not)」が、音として形を得る瞬間である。
これこそが、エリック・フラーの音楽の力——抽象を具現化する力だ。

アルバムのカバーに使われた白と黒のフレームに戻ると、『What Is Not』を聴き終えた今、フラーの音楽には確かな“色”があると断言できる。
それは白と黒、その間の無数のグラデーション。
音楽を通して色を「感じる」ことができるとは、まったく驚くべき体験だ。

『What Is Not』は現在、すべてのデジタルプラットフォームで配信中。
もしあなたが、自分自身を音楽に委ねる覚悟を持つなら、この作品は間違いなくあなたのコレクションに加えるべきだ。

評価(VERDICT)

17年——それは、アーティストを忘れるのに十分な年月であり、あるいは彼の帰還を“事件”に変える時間でもある。
エリック・フラーは後者を選んだ。

『What Is Not』は、壮大なコンセプトとその実現のあいだで危うくバランスを取りながら進む。
その“危うさ”こそがこのアルバムの本質だ。
7分にも及ぶ曲や、意図的なスロー・テンポは、時に自己陶酔的に思えるかもしれない。
とりわけ、録音場所が“ABBAが喜びを生んだ”アトランティス・スタジオであることを思えば、その対比は強烈だ。
だが、まさにその“遅さ”と“長さ”の中にこそ、フラーは自らの真実を見出している。

このノルウェーの音楽家は、ジャンルと音そのものを冷静かつ緻密に操る。
彼のミニマリズムは計算された選択であり、その空気感は層を重ねた精密な構築の結果だ。
「Fiesta for My Failure」でサックスとグランジ・ボーカルが爆発する瞬間、それはカタルシスのような解放であり、彼が“動的な美学”を理解している証でもある。
「Glimmering Dark」ではジャズの側面を見せ、インディー的憂鬱の範疇を超えた表現力を提示する。

そして、7分を超えるタイトル曲でアルバムは幕を閉じる。
フラーは、この7分間を手に入れる権利を、前のすべての楽曲で勝ち取ったのだ。
ここで彼の哲学的問い「存在しないものとは何か」は形を成し、霧は晴れ、光が差し込み、希望がギターの音を通して具現化する。
その瞬間、17年間の沈黙は、確かな意味を持つのだ。

『What Is Not』——それは、“本当に聴く”覚悟を持つ人のためのアルバム。
そして“聴く”という行為は、いつだって“信頼”の証である。
フラーは、その信頼に値することを、この作品で証明した。

※エリック・フラー(Erik Flaa) は、ノルウェー・オスロ出身のシンガーソングライター/音楽プロデューサーで、インディー・ロックやオルタナティブ・ポップを基調とした内省的で哲学的なサウンドを特徴とするアーティストです。

彼の音楽は、静けさと緊張感、叙情性と実験性を巧みに融合させており、メランコリック(憂鬱的)なハーモニー緻密に構築されたサウンドスケープが高く評価されています。

🔹 経歴と活動

  • オスロを拠点に活動し、初期の作品ではインディー・ロックやフォーク要素を取り入れた作風で注目を集めました。
  • その後、長い沈黙期間(約17年間)を経て、2025年にアルバム 『What Is Not』 を発表。
  • この復帰作は、ABBAが使用した伝説的なアトランティス・スタジオ(Atlantis Studio, Stockholm)で録音され、
    「存在しないもの(What Is Not)」という哲学的テーマを探求する作品として話題を呼びました。

🔹 音楽性の特徴

  • インディー・ロック、アンビエント、実験音楽、ジャズ的要素を融合。
  • サウンドはモノクロームの映像美のように構成され、聴く者の内面と対話するような深い世界観を持つ。
  • 批評家からは「霧の中で光を探すような音楽」「抽象を音にした哲学的作品」と評されています。

🔹 総評

エリック・フラーは、商業的成功よりも芸術的探求と精神性を重視するタイプのアーティストです。
彼の作品は、「静けさ」「余白」「思索」といったキーワードで語られ、
ノルウェー音楽シーンの中でも独自の存在感を放っています。

Erik Flaa Recorded Where ABBA Made Joy—He Brought the Opposite: Inside the Fog-Soaked Revelation of ‘What Is Not’

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