リード・スミスのグレゴール・プライヤーが語る
イマーシブ・ショーの可能性と「極めて複雑」な権利問題
エンターテインメント業界では、新作『アバター』映画の公開に向けて大きな盛り上がりが見られている。
しかし音楽業界にも、ABBA Voyageという“アバター型”現象が存在する。この公演はロンドンで4周年を目前に控えている。
イマーシブ(没入型)パフォーマンスの先駆けとなった圧倒的なプロダクションに加え、経済的インパクトも大きい。新たなレポートによると、ABBA Voyageは2022年5月から2025年5月までの間に、英国経済に対して20億6,000万ポンドの売上高を生み出し、11億4,000万ポンドのGVA(粗付加価値)に貢献した。
最新号の『Music Week』では、アバター型コンサートの可能性について特集している。ReservoirやUnit1といった企業によるこの分野の動向に加え、ABBA Voyageの共同プロデューサーたちの見解も紹介している。
また、音楽分野におけるテクノロジーの法的影響も重要な検討事項だ。『Music Week』誌では、PRS For Musicがイマーシブ作品向けのライセンス・フレームワーク構築に取り組んでいることも報じている。
ここで、リード・スミス(Reed Smith)のEMEマネージング・パートナーであるグレゴール・プライヤーが、イマーシブ制作の可能性について音楽業界がどう交渉すべきか、法的観点から専門的な見解を語る。
ABBA Voyageは、アバター・パフォーマンスの普及や革新の可能性をどこまで広げたと思いますか?
また、Pophouseが支援するKISSのプロダクションについてはどう見ていますか?
「さまざまなアーティストによる先駆的なアバター・ショーの試みは以前からありましたが、アバター体験を真に世に知らしめたのはABBA Voyageでした。ABBA Voyageは継続的に満員の観客を集め、SNSでも大きな反響を呼んでいます。
Pophouseは、音楽IPへの投資家として非常に慧眼であり、その資産を最も効果的にマネタイズできる消費者体験を創り出せるプロデューサーの優れたパートナーであることを証明しました。
ABBA Voyageの成功の一因は、バンドの幅広い支持にあります。ABBAの音楽とともに育った世代だけでなく、家族全員で来場し、何度も観に来る人たちもいます。また、『マンマ・ミーア!』の成功をうまく活用した点も大きいでしょう。KISSのショーも、異なる層をターゲットにしながら、同様に人気を博す可能性があります」。
この技術を使ったアバター・パフォーマンスの今後は?
「アバター・パフォーマンスやバーチャル・ショーは、今後さらに発展していくことはほぼ確実です。特に、往年のアーティストや、すでに亡くなっているアーティストにおいて顕著でしょう。
ただし法的観点から見ると、名前・肖像・人格権(Name, Image and Likeness)がこれらの概念の核心にあり、極めて複雑な分野です。それでもなお、こうしたショーには未開拓の巨大な可能性があり、それが投資家や戦略的パートナーにとって、基盤となる知的財産の価値を今後も押し上げていくでしょう」。
音楽企業は、イマーシブ/体験型エンターテインメントをどのように取り入れていますか?
「ソニーが最近行なっている一連の大型買収は、この流れを裏付けています。私の見方では、こうした取引は時間が経つほど、ますます賢明な判断だったと評価されるでしょう。
体験型テクノロジーは急速に進化しているため、取引には慎重な構造設計と将来を見据えた対応が必要です。アーティストの芸術的価値観が、プロダクションのクオリティや世界観と一致していることが重要です。その点で、ABBA Voyageは非常に優れた成功例だと言えます」。
ゲームやその他のプラットフォームでアーティストのアバター・パフォーマンスをライセンスする際の課題とは?
「私たちは、アーティスト側とプラットフォーム側の両方で、こうしたライセンス契約に関わってきました。ゲームプラットフォームにおけるアバター・パフォーマンスのライセンスには、独自の課題があります。とりわけ、ゲームエンジン環境がほぼ無限の表現可能性を持っている点が難しさを増しています。
最大の課題の一つは、ゲームスタジオやプラットフォーム、アーティストのマネジメントチーム、そして音楽の権利者それぞれの、時に食い違う目的をどのように整合させるかという点です」。
ライセンス収益の機会は?
「著作権管理団体は、次なる隣接収益のターゲットとしてゲーム・プラットフォームを明確に意識していますが、コンテンツがどのように提供されているかを十分に理解していないケースも多いのが現状です。
一方で、レーベルや出版社は、ゲーム分野においてより積極的かつ起業家的な姿勢を見せるようになっています。大規模な体験型ゲームは、アーティストとそのマネジメントにとって重要なターゲットであり、新たなオーディエンスにリーチし、従来のデジタル収益をはるかに超える商業的機会を生み出すことができます」。
*Gregor Pryor(グレゴール・プライヤー)(※)
アーティストチームや権利者は、ゲームプラットフォームとの契約にどう臨むべきでしょうか?
「従来のコンサート制作と、ゲーム環境におけるバーチャル体験との大きな違いは、知的財産に関する論点の多さです。リアルなコンサートでは、新たに制作された舞台資産で構成されることが多いですが、ゲーム体験では、すでに確立され価値を持つ既存IPと、アーティストおよび権利者のコンテンツが組み合わされます。
したがって、プラットフォームやゲームエンジンが、アバターや楽曲をどのように使用する意図があるのかを正確に把握し、どの権利や承認が必要かを明確にすることが不可欠です。これは難しい作業ですが、コラボレーションを成功させるためには極めて重要な要素です」。
※Gregor Pryor(グレゴール・プライヤー)とは、
音楽・エンターテインメント分野に強みを持つ国際的に著名なエンターテインメント/テクノロジー法の専門弁護士です。
基本プロフィール
- 氏名:Gregor Pryor(グレゴール・プライヤー)
- 職業:弁護士(エンターテインメント法・テクノロジー法)
- 所属:Reed Smith(リード・スミス)
- 役職:
- EME マネージング・パートナー
(EME=Europe, Middle East / 欧州・中東地域統括) - Reed Smith グローバル経営陣の一員
- EME マネージング・パートナー
専門分野
- 音楽・エンターテインメント法
- 知的財産権(IP)
- デジタル/テクノロジー関連法務
- イマーシブ・エンターテインメント
- アバター/バーチャル・パフォーマンス
- AI・ゲーム・メタバースに関する権利処理
特に近年は、
アバター・コンサート、没入型体験、仮想空間での音楽利用に関する
名前・肖像・人格権(Name, Image and Likeness rights)や
ライセンス構造の第一人者として知られています。
音楽業界での立ち位置
- ABBA Voyage のような
最先端のイマーシブ音楽プロジェクトに関わる
法的・戦略的課題を解説できるキーパーソン - レーベル、出版社、アーティスト、投資家、プラットフォームの
双方の立場で契約交渉に関与 - Music Week など業界メディアで
専門家コメントを頻繁に求められる存在
なぜ重要な人物か
ABBA Voyage、KISSのアバター・ショー、
ゲーム×音楽、バーチャル・ライブといった領域では、
- 従来の音楽著作権
- 肖像・人格権
- テクノロジー由来の新たな権利問題
が複雑に絡み合います。
Gregor Pryorは、こうした「次世代音楽ビジネス」の法的設計図を描ける人物であり、
Pophouseのような投資会社や、グローバル音楽企業にとって
極めて重要なアドバイザー的存在です。


