2001年のブロードウェイ初演以来、『マンマ・ミーア!』は世界的な現象となり、ABBAの不朽の音楽に包まれながら、愛、笑い、そして人生を形づくる絆を称える舞台として観客を魅了してきました。
舞台は陽光降り注ぐギリシャの島。結婚を控えた若い女性ソフィ・シェリダンが、母の過去の恋人3人を密かに招待し、自分の父親が誰なのかを探ろうとする――。そこから展開されるのは、アイデンティティや家族、そして人生の季節ごとに私たちを支えてくれる友情についての、陽気で高揚感あふれる物語です。
*ネバダ・ライリー(ソフィ役)、ベン・ダイアモンド(エディ役)、そして『マンマ・ミーア』のアンサンブルは、2025年シアター・アスペン・アプレンティス・クラス(研修生クラス)のメンバーで構成されています。
撮影:テイラー・レネー・スミス/提供写真。
ハースト・シアターでの本公演:演出はマイケル・ベロ
シアター・アスペンによる本作は、リオ・グランデ・パーク内のハースト・シアター(※)で上演され、8月2日まで開催中。演出はマイケル・ベロ。
このプロダクションは、『マンマ・ミーア!』特有の温かさとエネルギーを、新鮮な演技と巧みな演出、そして明るく楽しい空気感で見事に表現しています。心、ユーモア、そして適度なスパンコールで満たされた、完璧な夏の逃避行。
*『マンマ・ミーア!』にて、ソフィ役のネバダ・ライリーとスカイ役のベン・ダイアモンド。
撮影:ニッキ・ハウシャー/Nik House Media 提供。
キャストの輝き:若さと世代を超えた友情
ネバダ・ライリーは、ソフィ役に明るく魅力的な存在感をもたらします。エイヴリー・ラムジー(アリ)とグレース・モールディン(リサ)とともに、“三人組のグループチャット”のような絆の力を感じさせる演技を見せます。
この若い世代の絆は、ドナ(エリン・デイヴィ)と彼女の長年の親友たちであるターニャ(カイリ・レイ)とロージー(ミア・スカルパ)によって、見事に映し出されます。
「チキチータ」のシーンでは、哀しさとおかしさの絶妙なバランスが表現され、ピルのボトルをマラカスに、カールアイロンからは“男らしさ”が溢れるなど、涙を笑いに変える魔法のような瞬間が生まれます。
*ターニャ役(ダンスキャプテン)のカイリ・レイと、ハリー・ブライト役のジョン・ガーディナー。
撮影:ニッキ・ハウシャー/Nike House Media 提供。
演技と歌唱の強さ
デイヴィは、ドナに深みと誠実さをもたらし、感情豊かで力強い歌声で舞台を支えます。
ライリーとのシーン、特に結婚式前の静かな親子の時間は、もっとも心温まる瞬間の一つです。
スカルパとレイもそれぞれ光を放ちます。
スカルパの「テイク・ア・チャンス」は、完全に振り切った演技で観客を沸かせ、
レイの「ダズ・ユア・マザー・ノウ」は、堂々たるステージングで観客のお気に入りナンバーに。
*2025年夏、『マンマ・ミーア』でABBAの音楽を歌う「ダイナモス」。
左から:ターニャ役(ダンスキャプテン)のカイリ・レイ、ドナ・シェリダン役のエリン・デイヴィ、ロージー役のミア・スカルパ。撮影:テイラー・レネー・スミス/提供写真。
父親候補たちの登場で物語に深み
3人の父親候補――サム、ハリー、ビル――が到着すると、物語はさらにテンポと感情の厚みを増していきます。
- サム(ベンジャミン・イークリー)は、誠実さと温かみを。
- ビル(ジョシュ・アダムソン)は、たくましさとユーモアで観客を魅了。
- ハリー(ジョン・ガーディナー)は、控えめなキャラクターの裏にある繊細な感情を巧みに表現します。3人は、ショーの大げさで派手な瞬間に程よいバランスを加えています。
アンサンブルの魅力と演出の完成度
アンサンブルキャストは、**島の住民、結婚式のゲスト、そして“ギリシャ風コーラス”として自在に場面転換し、**舞台全体に命を吹き込んでいます。
「ギミー!ギミー!ギミー!」では、スローモーションのコミカルなダンスシーンや、
層をなすハーモニー、全キャストによる華やかなダンスナンバーなどが、ショー全体の躍動感を高めています。
*2025年、アスペンで上演された『マンマ・ミーア』の「ダイナモス」。
左から:ロージー役のミア・スカルパ、ドナ・シェリダン役のエリン・デイヴィ、ターニャ役(ダンスキャプテン)のカイリ・レイ。撮影:テイラー・レネー・スミス/提供写真。
舞台美術・衣装・照明・音響・音楽
- 舞台美術(セス・ハワード)は、海辺の村の風景を再現。舞台前方の石畳が観客の空間にも伸び、物語世界に自然と引き込まれます。
- 衣装(ジェス・ガーズ)は、カジュアルな日常着からきらめくディスコ衣装まで見事に切り替わります。
- 照明(ウィーラー・ムーン)と音響(片山めぐみ)が、滑らかな転換と場面展開を支えます。
- 音楽監督(アラン・J・プラド)が率いるオフステージの生バンドは、明瞭で力強い演奏で舞台を後押ししています。
フィナーレは“コンサートのアンコール”のように
最後は、まるで本物のコンサートのようなフルスロットルの祝祭。観客も歌い、踊り、カーテンコールというよりアンコールに近い感覚で、作品が締めくくられます。
このフィナーレは、出演者、キャラクター、観客同士の“つながり”が生み出す祝福の時間*。
そこには、自分を見つけるとは、実はすでに持っているものに気づくことなのだという、静かで力強いメッセージが込められています。
心を動かす夏の喜び
抗えない名曲、心のこもった演技、夏のぬくもり。
『マンマ・ミーア!』は、観客を笑わせ、歌わせ、そしてもしかしたら恋させる、最高の夏のエンタメ体験なのです。
※シアター・アスペン(Theatre Aspen)とは、アメリカ・コロラド州アスペンを拠点とする非営利の舞台芸術団体(地域劇団)で、プロフェッショナルな演劇・ミュージカルの上演と次世代のアーティスト育成を柱とする、全米屈指の小規模ながら質の高い劇場カンパニーです。
※ハースト・シアター(Hurst Theatre)とは、アメリカ・コロラド州アスペン(Aspen, Colorado)にある野外型の舞台芸術劇場で、Theatre Aspen(シアター・アスペン)の本拠地として知られています。