この作品のタイトルは『The Opening』で、チェスのグランドマスターであるハンス・ニーマンと、世界ランキング1位で5度の世界チャンピオンであるマグヌス・カールセンをめぐる実際のCHESS不正スキャンダルを題材にしたミュージカル・コメディである。
*ノースイースタン大学卒業生のブルック・ディ・スピリトは、来年、風変わりなCHESSを題材にしたミュージカルでオフ・ブロードウェイ・デビューを果たす予定だ。提供写真
ブルック・ディ・スピリトが再び動き出した。
3年前、彼女はF・スコット・フィッツジェラルドの『The Beautiful and the Damned(美しく呪われし者)』のオリジナル・ミュージカル化作品をニューヨークの歴史あるジャンヌ・リムスキー劇場で初演した。そして2021年にノースイースタン大学を卒業した彼女は、来年、CHESSを題材にした風変わりなミュージカルでオフ・ブロードウェイ・デビューを果たそうとしている。
この作品『The Opening』は、CHESS界を揺るがした2022年のスキャンダルをネタにしたミュージカル・コメディだ。
「とにかくバカバカしくて面白いんです。みんなこの話を知ってますから」とディ・スピリトは語る。「知らない人に話すと、その反応がまた最高に面白いんです」。
そして、もちろんこれはあの『CHESS・ミュージカル』ではない。つまり、この秋ブロードウェイにやって来る冷戦時代の三角関係を描いた『CHESS』のことではない(1988年のカルト的名作のリブートで、エミー賞ノミネートのリア・ミシェル、トニー賞受賞のアーロン・トヴェイト、ニコラス・クリストファーが出演予定)。
そのため、『The Opening』のマーケティング用キャッチコピーはぴったりこうだ。
「CHESSについての2番目に有名なミュージカル」
「ニューヨークがCHESSのミュージカルを2本も受け止められるか、見ものですね」と彼女は冗談を飛ばす。
ディ・スピリトは『The Opening』を「ブロ・コメディとファウスト的契約の融合」と表現している。物語は、若きCHESS選手ニュートン・アンダーソンが世界選手権でイカサマをしようと企む話で、その対戦相手には現役世界No.1のカーソン・マールソンがいる(CHESS愛好家なら、この名前に思わず二度見するだろう)。
ニュートンはCHESSをまったく知らない友人ジムの助けを借りるが、ジムは忠実な共犯者として手を貸す。二人は試合中にモールス信号を使って指し手を伝えるなど、奇抜な方法で勝利を狙う。ちなみにモールス信号は、実際に10年ほど前の不正事件で使われた手口だったという。
*ブルック・ディ・スピリトは、ニューヨーク市のBMIリーマン・エンゲル・ミュージカル・シアター・ワークショップ(※)で自身のミュージカルを試作した。提供写真
「不正の方法については、物語の中でさまざまなツイストやどんでん返しがあります」とディ・スピリトは語る。
この数年、ディ・スピリトは大忙しだった。ミュージカルの創作に取り組むだけでなく、ロングアイランドに拠点を置く自身のプロダクション会社や劇団「The Sparrows」を運営している。彼女はまた、F・スコット・フィッツジェラルド協会から委託を受け、ジャズやスウィング・ダンスを取り入れた没入型の舞台を執筆し、この夏に上演された。
これまでに彼女が書いたオリジナル作品は6本にのぼり、すべて「The Sparrows」によって上演された。
ノースイースタン大学卒業後、彼女はニューヨークに移り住み、本格的に舞台芸術の道を追求。現在はバレエを教え、地元の高校でミュージカルの演出や振付を行い、バレエとスウィング・ダンスのパフォーマーとしても活動している。
ディ・スピリトが『The Opening』の種を見つけたのは、2023年に「Musical Creators’ Institute」のクラスに参加した時だった。彼女と共同脚本家のマテオ・チャベス・ルイスは、そこで作品の骨格を作り上げた。
その後、二人はワールド・トレード・センター7に拠点を置く名門プログラム「BMI Lehman Engel Musical Theatre Workshop」で開発を続けた。このプログラムはミュージカル作家の登竜門とも言われ、厳格な訓練と競争的な選考で知られている。
「ずっと入りたいと思っていて、やっと合格できたんです。ここでたくさんの作家チームが出会ってきました」とディ・スピリトは話す。
そしてあるセミナーで、プレイヤーズ・シアターが主催する自主演劇レジデンシーを知った。それは公演をさらに磨き上げ、投資家を引きつけ、最終的に初演へとつなげる機会を与えてくれるものだった。
彼女とルイスは応募して受け入れられ、この劇場で公演を行なう権利を得た。
「レジデンシーのおかげで劇場が確保でき、主要なチケット販売網に載ることになりました」と彼女は言う。
生涯のCHESS愛好家でもあるディ・スピリトは、この作品に祖父の影響もあると語る。祖父はCHESS盤を作る職人で、幼い頃に彼女にチェスへの愛を芽生えさせたのだ。
「本当に思いがけないことでした。こんなに早くこのテーマに出会えるとは思ってもいませんでした。」
この作品は1月8日に初演され、1か月間の上演が予定されている。
「とにかく面白いし、楽しいんです。完全オリジナルの音楽で、上演時間は90分、休憩なしです」とディ・スピリトは語った。
※BMIリーマン・エンゲル・ミュージカル・シアター・ワークショップ(BMI Lehman Engel Musical Theatre Workshop) は、アメリカ・ニューヨーク市に拠点を置く、作詞家・作曲家・脚本家のための名門トレーニング・プログラムです。
- 設立の経緯
1961年、著名な指揮者・作曲家であった リーマン・エンゲル(Lehman Engel) が創設しました。彼はブロードウェイやハリウッドで活動し、若手クリエイターの育成に力を注いだ人物です。 - 運営
アメリカの音楽著作権管理団体 BMI(Broadcast Music, Inc.) によって運営されています。受講料は基本的に無料で、選抜試験に合格した才能あるクリエイターだけが参加できます。 - 特徴
- ミュージカルの作詞・作曲・脚本に特化したワークショップ。
- 厳格なカリキュラムと実践的な指導で知られる。
- 参加者はチームを組んで新しいミュージカル作品を開発し、発表する。
- 多くのブロードウェイ作家や作曲家の出発点となってきた。
- 輩出した代表的なクリエイター
- アラン・メンケン(『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『アラジン』など)
- モーリー・イェストン(『ナイン』『タイタニック』)
- ロバート・ロペス(『アベニューQ』『Book of Mormon』『アナと雪の女王』)
- その他、多数のトニー賞受賞作家や作曲家。