ニューヨーク(AP)―リア・ミシェルがまだ子役だった頃、ブロードウェイのインペリアル劇場の舞台裏で、彼女は初めてミュージカル『CHESS』の楽曲をステレオから耳にした。それからおよそ30年後、彼女はまさに同じ劇場で、同じ曲を歌っている。
*リア・ミシェルがニューヨークのインペリアル劇場で行なわれたミュージカル『CHESS』の公演中に登場している。(AP通信、マシュー・マーフィー撮影)
インペリアル劇場は、1988年に『CHESS』がブロードウェイで初演された場所でもある。リアは8歳でプロとして舞台に立ち始めたベテランで、今では母となり、確固たるスターとして、古巣へ戻ってきた。
「インペリアル劇場には本当に“魂”があります。これまで上演されたすべての作品が壁に吸い込まれているような感覚です。少し不気味な感じもありますが、とても力強い。他の劇場は少し無機質に感じることもありますが、ここはまったく違います」と彼女は語る。
リアは初めて『レ・ミゼラブル』を観たときのことを、はっきり覚えているという。オーケストラ席の左側、6列目。ファンティーヌ役のペイジ・オハラが「夢やぶれて」を歌うのを聴き、その数か月後には自分がヤング・コゼット、ヤング・エポニーヌとして舞台に立つことになる。
「私はこの作品に出演していて、両親にこう言ったのを覚えています。『これが大好き。私は一生これをやりたい』って。それから30年経って、こうしてまた同じ劇場で仕事ができるのは、とても感慨深いことです。ありがたいかぎりです。そして戻ってきたときに、電気スタッフの方が『おかえり』と言ってくれたんです。最高のご褒美でした」。
『CHESS』とはどんな作品?
新演出版『CHESS』は11月16日に開幕。主にバンコクとブダペストを舞台に、アメリカ人(アーロン・トヴェイト)とソ連のCHESS・グランドマスター(ニコラス・クリストファー)が、それぞれの国家のために勝負する物語だ。さらに二人が同時に恋心を抱く女性(ミシェル)が現れ、事態は複雑になる。
「これは、私が今まで演じてきた役の中でも最も難しい役の一つです」とミシェルは話す。「彼女は大人の女性で、強い。でも私は今回、コメディに逃げるわけにはいかない。守ってくれる“笑い”の鎧がないんです」。
今回の作品で、ミシェルは自身のブレイク作『スプリング・アウェイクニング』(2006年)と、2022年の『ファニー・ガール』でタッグを組んだトニー賞受賞演出家マイケル・メイヤーと再び手を組む。
メイヤーにもインペリアル劇場には深い思い出がある。彼が初めて観たブロードウェイ作品『ピピン』(1976年、ベン・ヴァリーン主演)が上演されていた劇場だったのだ。彼はメザニン席の後方、右通路から8席目に座っていたという。「そこに座った瞬間、当時の記憶が一気によみがえりました」。
音楽はABBAのビヨルン & ベニー
本作は、ABBAのビヨルン・ウルヴァースとベニー・アンダーソンが音楽を手がけ、歌詞をティム・ライスが担当した1984年のコンセプト・アルバムが原型だ。
名曲「Anthem(アンセム)」
全米3位を記録した「One Night in Bangkok(ワン・ナイト・イン・バンコク)」
珠玉のデュエット「I Know Him So Well(アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウェル)」
が収録されている。
『CHESS』は1986年にロンドンで初演され、1988年のブロードウェイ版では大幅改訂された。熱狂的ファンを持つ一方で、ブロードウェイ版は90回に満たずに閉幕した“失敗作”として扱われた歴史もある。これまでにコンサート版や新演出版が何度も試みられ、今回の最新バージョンでは脚本家ダニー・ストロングが物語を新たに書き直している。
ミシェルは、この作品が抱える“ぎこちない歴史”を理解したうえで参加している。
彼女は、自身が『スプリング・アウェイクニング』を始めた頃を思い出すという。「当時、みんな言っていたんです。『1890年代のドイツを、ロックと10代の性をテーマにどうやって成立させるの?』って」。
「私たちは、この新作を観ていただくのが本当に楽しみなんです。作品の歴史を無視しているわけではありません。でも、今私たちが持っているものを信じています。観ていただければ、たくさんのことが腑に落ちるはずです」。
ミシェルとメイヤーの関係
ミシェルとメイヤーは出会って25年以上。関係は変化し、深まってきた。
「彼女が成長していく姿をずっと見てきました。今では父親のような感覚はありません。私たちは仲間であり、友人で、ほとんど家族です」とメイヤーは語る。「彼女と出会ったとき、彼女は14歳でした。今では人生の多くを共有してきた仲間です。一緒に仕事ができること、そして言葉が要らないほどの呼吸が合うことは、本当に素晴らしい」。
前夜にメイヤーに新しいアイデアが浮かび、翌朝ミシェルも同じアイデアを3時に思いついていたという。「リハーサルの冒頭でお互いに口にしたら、まったく同じ発想だったんです」。
ミシェルの記憶は、再び子ども時代のインペリアル劇場に戻る。楽屋では、他の少女たちが『ミス・サイゴン』や『バイ・バイ・バーディー』、そして『CHESS』の「Heaven Help My Heart」をよく流していたという。今、その曲を歌うのは彼女自身だ。
「30年経って、またインペリアル劇場に戻ってきたんです。信じられない気持ちです」。
マーク・ケネディ(AP通信)

