ロンドン — コンセプトづくりから実現までに5年以上を費やした混合現実ショー「ABBA Voyage」。この公演では、コンピューターで生成されたABBAターが、10人編成のライブバンドを背後に従え、ロンドン東部のクイーン・エリザベス・オリンピック・パーク内に特設されたアリーナで、オリジナルメンバーさながらにパフォーマンスを行なう。
*筆者は妻のメンチュ、義理の姉ヴィッキー、姪のマリカーとともにABBAアリーナを訪れた。
「ABBA Voyage」は、ベニー・アンダーソン、アンニ=フリード・リングスタッド、アグネタ・フォルツコグ、ビヨルン・ウルヴァースになりきるトリビュートバンドの公演ではない。ステージに立つのは人間ではなくABBAターで、ホログラムでもない。4人のABBAの姿と容姿をデジタルで再現するため、彼らはストックホルムのスタジオで5週間、体にセンサーを装着し、人間の動きをコンピューターへ取り込ませる作業を行なった。
ABBAの4人は、モーションキャプチャスーツを身につけ、歌い、踊り、表情を作り、しゃべり、それらの動きが1979年当時の姿をしたアバターとして命を吹き込まれることになった。
*これが1979年当時のABBAの姿です。
ABBAター制作は挑戦の半分にすぎなかった。もう半分は、90分間のコンサートを形にすることだった。ABBAターたちは3面の巨大LEDスクリーンで歌う。高さ9.5メートル、6,500万ピクセルのLEDだ。メインスクリーンは中央舞台にあり、等身大のアバターが現れる。両脇のパネルは巨大で、パフォーマーを拡大表示する。ABBAターだと知らなければ、人間がステージに立っていると勘違いするほど。約40年前の人間の肉体を、観客が没入できるレベルで再現した技術は驚異的だ。
*ABBAの衣装には、ABBAター再現のために動きを記録するセンサーが取り付けられている。
ABBAは1972年に結成され、2年後、ユーロビジョン・ソング・コンテストで「恋のウォータールー」で優勝し一躍スターダムへ。アグネタとビヨルン、フリーダとベニーはそれぞれ結婚していたが、双方の夫婦関係が破綻し、グループは1982年に活動停止した。しかしABBAの楽曲は生き続け、レコード売上は1億5,000万枚を超え、音楽は世界的ミュージカル『マンマ・ミーア!』で永遠のものとなった。2000年には再結成に10億ドルのオファーがあったが辞退。その後『マンマ・ミーア!』は2008年に映画化され、2018年には続編が公開された。
*ファンたちが、プログラムが販売されているグッズ売り場に群がっている。
2016年、「ABBA Voyage」の構想が生まれ、5年後、ショーを宣伝する同名アルバムをABBAがレコーディング。制作費1億7,500万ドルが集まり、2022年に公演がスタートした。ショーは週7日上演され、毎晩完売。週に200万ドル以上を稼ぎ出している。アリーナの収容人数は3,000人で、半分が立見席、半分が座席。平均チケット価格は100ドルを超える。
セットリストには20曲以上が並び、「エス・オー・エス」「ノウイング・ミー、ノウイング・ユー」「チキチータ」「悲しきフェルナンド」「マンマ・ミーア」「ギミー!ギミー!ギミー!」「ヴーレ・ヴー」「恋のウォータールー」「サンキュー・フォー・ザ・ミュージック」「テイク・ア・チャンス」「きらめきの序曲」「マネー、マネー、マネー」「ダンシング・クイーン」そして「ザ・ウィナー」など、名曲ぞろいだ。
ABBAアリーナのドーム屋根は約745トンあり、公演が来年5月に終了した後は移設が大きな課題となる。敷地は住宅開発地として計画されているため、プロデューサーたちは新しい設置場所を探している。500台の動く照明機器、291基のスピーカー、87万ワットの音響システム、3万個のライトポイント、850台近い電動ケーブルウィンチ、2,500平方メートルの設備、さらに100キロ以上のケーブル。このシステムを再構築するのは容易ではない。
「ABBA Voyage」を観ることは、夢の中に生きているような感覚だ。幻想なのかと思うが、ABBAターが本物のABBAのように動き、歌い出した瞬間、その感覚は圧倒的な現実味を持つ。音楽は時間も空間も超えてしまった。この驚くべき「ABBA Voyage」に乗り込むことで、エンターテインメント技術の進化の真っただ中にいることを実感し、未来はもう目の前にあると気づかされる。
https://www.philstar.com/entertainment/2025/11/06/2485099/abba-voyage-no-other




