In concert – ABBA Voyage @ ABBA Arena, London
(ロンドン・ABBAアリーナにて ― ABBA Voyage コンサート)
文:Ben Hogwood 写真:ABBA Voyage公式サイト提供
正直に告白すると、私は昔、ABBAに少し苦手意識があった。
「マネー、マネー、マネー」や「スーパー・トゥルーパー」といった曲のメロディは小学校のディスコで流れていた一番古い記憶の音楽として大好きだったが、そのうち“ちょっとチーズっぽい(ベタすぎる)”と感じるようになり、大学の学生ナイトで夢中だったハウスミュージックを邪魔する存在になってしまっていたのだ。
しかし、年齢を重ねるにつれて、音楽の好みはウイスキーの熟成のように、あるいは突然「これだ!」と味がわかるようになる食べ物のように、徐々に、そして思いがけないほど劇的に変化し得るものだということを学んだ。
そして、ABBAに対する自分の感覚が変わったことを決定的に実感したのが、11月8日(土)に訪れた ABBA Voyage の公演だった。
これから自分が味わうことになる“感情のスケール”について、私は全く心の準備ができていなかった。
アリーナへ入る前、会場には期待感が満ちており、誰もが笑顔で、現代の世界の嫌な部分をほんの数時間だけ振り払おうとしていた。しかし実際には、ショーが始まってわずか1分で、それはすでに成し遂げられていた。
照明(WHITEvoidが担当)と音響は、その高額なチケット代を正当化するもので、これは“これまでで最高の映画体験”と“ライブの興奮”のちょうど中間に位置するショーだった。
バックを支える Hero Band は驚異的で、その高度な演奏技術はもちろん、音楽への深い愛情が伝わってきた。ボーカルをひとつひとつ完璧に再現しながらも、自分たちの個性をしっかりと吹き込んでいたのだ。
そして、何よりも ― ボーカルが素晴らしかった!
最初は、あのステージ上のABBAターたちが本当に歌っているとつながらないように思えた。あんな遠くに見える姿で、あれほどの歌唱をするなんて無理に見えたからだ。しかし、アグネタ、ベニー、ビヨルン、そしてアンニ=フリードの姿が巨大スクリーンに現れた瞬間、私たちは現実をいったん脇に置いて、目の前に広がる驚異の音楽の旅を楽しむ覚悟を決めるしかなかった。
ラジオリスナーやディスコのダンサーにとって、ABBAはまさに人生そのものだ。
意識していなくても、彼らは私たちの日々の動きを“勝手に”音楽で彩ってきた存在である。
今回のセットリストの中で、冒頭に選ばれた「ザ・ヴィジターズ」「ホール・イン・ユア・ソウル」、そして“新しい”曲である「ドント・シャット・ミー・ダウン」を除けば、どの曲にも長いラジオの歴史が刻まれていた。
とくに「ザ・ヴィジターズ」は、ABBAの持つ“シングル曲以外の強さ”を見事に証明した。フロントラインに立つヒット曲以外にも、まだまだ隠れた名曲が山ほどあるのだという事実を実感させられる。
「ドント・シャット・ミー・ダウン」は胸の奥の弱さを鋭く突きながら、サビでは高らかな解放感を与えてくれた。
曲が進むにつれ、まるで私たちの人生そのものが目の前に再生されていくような、強い感情の波が押し寄せてきた。
「スーパー・トゥルーパー」がなかったのは意外だったが、「マネー、マネー、マネー」は6歳の頃のディスコの風景を鮮明によみがえらせてくれた。
思いがけなかったのは、「悲しきフェルナンド」での圧倒的な感情の渦。特別な瞬間を共有しているという空気が会場を包み込んだ。
そして「ノウイング・ミー、ノウイング・ユー」では、実際の“人生のソープオペラ”のような切なさと、歌詞に秘められた“崩れゆく関係”の物語を真正面から味わうことができた。アラン・パートリッジのパロディを思い出して笑ったりしつつ、内面では深く刺さるものがあった。
ステージはディズニー作品のような完璧な流れで移り変わり、アニメーションが思わぬ高揚感を生んだ。
特に「イーグル」は圧巻で、Shynolaのアニメーションによって地球の上を飛び回るようなエンドルフィンの奔流が起きたが、その感動すらも、続く「恋のウォータールー」の大勝利の前では色あせてしまうほどだった。
「恋のウォータールー」は1974年のユーロビジョンで優勝した当時のブライトン・ドームでのパフォーマンスを完全再現。
そこから弾けるように「サンキュー・フォー・ザ・ミュージック」へつながり、音楽という芸術への賛歌が会場を満たした。
そして私たちは立ち上がり、「ダンシング・クイーン」で歓喜に包まれ、最後は壮大な「ザ・ウィナー」で心を揺さぶられた。
時折、ABBAとその関係者たちはVoyageでどれだけ稼いでいるのだろう…というシニカルな考えが頭をよぎる瞬間もあった。
しかしすぐに、「いや、この体験は一円たりとも惜しくない」と思い直した。
―― 2時間のあいだに1000回も肯定されたような、そんな深い幸福感に満たされるからだ。
もしまだ見ていないなら、ぜひイーストロンドンまで足を運んでほしい。
“幸福感”のレベルが桁違いだからだ。
Voyageの公式サイトが言うように、「これは、他にはないコンサート!」 なのである。




