アーロン・トベイトが語る『CHESS』復活と、“ABBAの音楽が永遠である理由”

アーロン・トベイトは、相手をチェックメイトに追い込む術を知っている。というのも、このトニー賞受賞俳優は、子どもの頃にそのスキルと戦略を学んだからだ。

「子どものころ、兄や父、祖母とよくCHESSをしました」と彼は感謝祭のわずか2日前、Ticketmasterの取材に語る。

「基本から、それ以上のこと」まで理解していると語るCHESSの知識は、現在彼がブロードウェイで上演中の『CHESS』のリバイバルで主演する上で大いに役立っている。
本作は、ベニー・アンダーソン、ビヨルン・ウルヴァース、ティム・ライスによる熱狂的なカルト・ミュージカルだ。

物語は1970年代末、再び緊張が高まった冷戦時代を舞台に、
アメリカ人とロシア人の二人のCHESS・グランドマスターが、
高い賭け金のトーナメントで対決し、その間に挟まれる女性の複雑な運命を描く。

1988年にブロードウェイ初演された際、
その題材を「時宜を得ていた」と言うのは控えめな表現だろう。
当時、ソ連ではほぼ100年にわたる共産主義が続き、
ベルリンの壁はドイツを分断し、
ミハイル・ゴルバチョフの指導下で東欧が再編されつつある時代だった。

それでもトベイトは言う。
レーガン・ドクトリンの影響から数十年が経った今でも、『CHESS』で扱われるテーマは
現代においてなお鋭い力を持ち続けていると。

「多くの人があの時代について深く知っています。でも距離があるからこそ、『ああ、これは今と似ている』『むしろ今のほうが悪くなっている部分さえある』と、より冷静に見つめることができます。
この作品は、今の世界で何が起きているかについて、観客が自分自身を振り返る“鏡”になり得るんです」。

現在、インペリアル・シアターで上演されている新演出版でトベイトは、
アメリカ人グランドマスター フレディ・トランパー を演じる。
対するロシア側のアナトリー・セルギエフスキー役には ニコラス・クリストファー
その間に立つフローレンス・ヴァッシー役には リア・ミシェル が出演している。

*『CHESS』に出演するアーロン・トベイト(撮影:マシュー・マーフィー)

このリバイバルでは、「サムワン・エルシズ・ストーリー(他の誰かのストーリー)」「ワン・ナイト・イン・バンコク」「ホエア・アイ・ウォント・トゥ・ビー(私の目指す場所)」などの名曲に加え、ダニー・ストロングによる新しい脚本も注目だ
(ちなみに彼はTVや映画の脚本で数々の賞歴があり、『ギルモア・ガールズ』のドイル役としても知られる)。

以下、トベイトが Ticketmaster に語った独占インタビュー。
『CHESS』が待望の復活を果たしたことへの思いから、作品が現代に投げかける“人間の価値”に関する問い、さらに故ギャヴィン・クリールとの思い出を呼び起こす曲、そしてお気に入りのABBAソングまで──。

Q:開幕おめでとうございます! 今のところ順調ですか?

トベイト:
ありがとうございます。本当に、開幕を迎えられてとても嬉しいです。
順調ですよ、すごくいい感じです!

プレビュー公演も素晴らしかったですが、
昼は稽古、夜は本番という生活はやっぱり大変なので、
正式に開いた今、ついに“通常運転”に入れるのは本当に嬉しいですね。
初週は最高の滑り出しでした。とてもワクワクしています。

Q:『CHESS』という作品は、ブロードウェイ史の中でも非常にユニークな位置づけですよね。今回の復活に惹かれた理由は?

トベイト:
本当に“愛されている作品”なんです。
特にブロードウェイが好きな人なら誰もが知っていて、
「このスコアが大好き」「私の一番好きな作品」と言う人も多い。

でも、そういう人の多くは実際の公演を観たことがないんですよね。
地方公演を観たことがある人はいても、
ニューヨークでは1980年代後半以来、フルスケールの作品が上演されていない。
しかもその時の公演は短い上演期間だったと言われています。

そんな作品がついに復活し、
その歴史の一部になれるというのは本当に特別なことです。

実は僕自身も、大学時代に「このスコアを聴け」と言われて知ったのが始まりで、
すぐに夢中になったんです。
「何だこれは!? すごすぎる!」と思いました。

だから今、こうして多くの人に愛されている作品のリバイバルに
出演できることは、僕にとっても信じられないほど光栄なんです。

Q:あなたが演じるフレディ・トランパーとはどんなキャラクター?

トベイト:
フレディは、非常に向こう見ずで、自己中心的で、
そして天才的なCHESSプレーヤーです。
名声を愛している人ですね。

ただ、精神的な問題を抱えていて、
劇中では幼少期にかなりトラウマとなる出来事があり、
11歳の頃に有名になったことに対処するための支えが無かったことがわかります。

いわば、そのツケが今の人生に現れているわけです。

彼は複雑なキャラクターですが、
この作品の良いところは、彼が“旅”をするところです。
つまり、彼は変わる。
舞台の冒頭では“あまり良い人ではない”かもしれませんが、
物語の中で少しずつ良い方向へ向かう。
僕はいつも、そういう“変化できる人物”を演じたいと思っています。

Q:稽古を始める前、CHESSというゲームについてどれくらい知っていましたか? グランドマスターを演じるために基礎を学ぶ必要はありましたか?

トベイト:
子どもの頃はCHESSをたくさんやっていました。ここ数年はやっていませんでしたが、子どもの頃、祖母がカードゲームやボードゲーム、チェスなどあらゆる遊びを教えてくれたんです。祖母はもう亡くなっていますが、彼女はポーカーの遊び方も教えてくれて、今では僕はポーカーをよくやっています。

CHESSは何年もやっていなかったけれど、昔は兄や父、祖母とよく対戦していました。決して上手いわけではありませんが、少なくとも基礎は──多分基礎以上は──理解していたと思います。この作品を通してその感覚を取り戻すのは、とても楽しい経験になりました。

友人の中には本当に強いプレーヤーがいて、Chess.comで僕を容赦なく叩きのめしながら楽しんでいます(笑)。
でも同時に、上級レベルのチェスの話をたくさん彼らとできて、それがすごく楽しくて。

舞台上でCHESSのルールを完全に理解している必要はありません。もちろん脚本にCHESSの要素は含まれていますが、俳優として作品に関わるたびに“何か新しいことを学べる”というのが本当に楽しいんです。普段出会わない世界に触れられる。それは自分の演技に深みを与えるし、自分が話している内容の半分でも理解できるなら、作品にとってプラスになると感じています。

Q:作品『CHESS』は冷戦末期に初演された際、とても“時宜を得た作品”でしたが、35年を経た今、2025年の観客にはどのように響くと感じていますか?

トベイト:
この作品に参加したいと思った大きな理由のひとつがこれです。
良い演劇、良いアートというものは、娯楽であると同時に、“社会の鏡をそっと差し出す”ような役割を持つこともできる。

初演当時は、まだ冷戦という政治構造の真っ只中でした。ベルリンの壁は崩壊していなかったし、ソ連もまだ解体されていなかった。時間的な距離がないと、物事を客観的に見るのは難しいものです。

でも今の私たちには、距離も時間も視点もある。
あの時代を知る人は多いし、この作品を通してさらに知る人もいるでしょう。
距離があるからこそ、「当時と今の似ている点」「むしろ悪化している部分」を見つめることができる。
それによって、観客は“今世界で起きていること”について考えるきっかけを得るんです。

*『CHESS』のアーロン・トベイト、写真:マシュー・マーフィー

Q:この作品はプロパガンダや政治的分断についても語っていますよね。その点についてどう思いますか?

トベイト:
物語はCHESSの選手を中心に描かれていますが、興味深いのは、KGBの工作員とCIAの工作員が、CHESSの対局を“自国の政治的利益”のために利用し始めることです。

そうすると何が起きるか──
一般市民の人生がその犠牲になるんです。

これは現実でも同じですよね。国家という巨大な存在が“CHESSの駒”のように人や状況を動かすとき、そこに巻き込まれる個人の人生については考えられないことが多い。

ニュースでは政治や国際問題が“巨大なもの”として語られますが、その裏で苦しむのは常に“人間”なんです。
この作品を通して感じたのは、舞台上で起こる政治の影響で、登場人物たちの人生が崩壊していくということ。そしてこれは現実でも報道の中でしばしば忘れられてしまう部分です。

Q:今回のリバイバルでは、リア・ミシェルとニコラス・クリストファーと共演しています。三角関係を演じる中で、彼らから何を学びましたか?

トベイト:
素晴らしい経験です。
ニック(ニコラス)とは去年『スウィーニー・トッド』で共演しましたが、そのとき僕は途中参加だったので、稽古プロセスを一緒に経験したのは今回が初めて。彼の役への献身、取り組み方、すべてが本当に素晴らしい。今回の役も本当に圧巻です。

リアについても同じです!
長年の知り合いですが、一緒に仕事をするのは初めてで、彼女の仕事への姿勢には本当に感動しています。

夏には3人で、演出家のマイケル・メイヤー、脚本家ダニー・ストロングと一緒に脚本について話し合う機会がありました。
彼ら(ニックとレア)が持ち込んだキャラクターへのアイデアや、作品へのアプローチは本当に素晴らしく、僕は圧倒されました。

レアとは“やっと一緒に仕事ができた”という気持ちですし、ニックとは“ようやくじっくり稽古できた”感じです。
2人と同じ舞台に立てることを、心から愛しています。

*『CHESS』のアーロン・トベイトとリア・ミッシェル、写真:マシュー・マーフィー

Q:今回のリバイバルでは、アービターというキャラクターが“語り手”のような役割に大きく変更されていますよね。それによって物語の形式はどう変わりましたか?

トベイト:
さっき話した内容にも通じるんですが、アービター役のブライス・ピンクハム──彼のことはずっと大ファンだったので、間近で彼の仕事ぶりを見ることができて本当に感動しています。

彼のナレーションは、作品が描く“時代”と“場所”を明確に提示し、冷戦の背景を観客にしっかり伝えてくれます。
冒頭で彼はこう言うんです。

「時は1979年。みなさんがこれから目にする出来事の多くはフィクションですが、多くは実際に起きたことでもあります」。

これが物語のトーンを一気に決定づける。
つまり、観客はこれから架空のドラマを見ることになるけれど、同時に“歴史小説”のような側面も持つ、と彼が示すんです。

彼は観客に直接語りかけながら、
「この瞬間の背景にはこういう歴史があった」
と文脈を補足してくれる。
フィクションのストーリーに、ノンフィクションの基礎をしっかり添えてくれる存在なんです。

Q:『CHESS』は、ABBA のベニー・アンダーソンとビヨルン・ウルヴァースが1982年の最後のパフォーマンス後に初めて作曲した作品でもあります。彼らの音楽が“永遠”と言われる理由は何だと思いますか?

トベイト:
本当に興味深い組み合わせなんです。
ここ数年、若い世代が ABBA を新たに発見し、再び愛するようになっていて、
ABBAの曲は “アンセム” のような存在になっています。
夏になれば至るところで流れていて、あのポップミュージックには不思議な“永遠性”があります。

そこにティム・ライスが書く歌詞が加わる──
彼は『ライオン・キング』『ジーザス・クライスト・スーパースター』『アイーダ』など
歴史的名作を生み出した、最も偉大な作詞家の一人ですよね。

ティム・ライスの演劇的な歌詞 × ABBAの心を揺さぶるポップミュージック
この組み合わせが、『CHESS』という作品を唯一無二にしているんだと思います。

『CHESS』の emotional storytelling(感情の物語)はすべて音楽で語られる。
これは ABBA の音楽では当然のことですよね。
たとえば「ザ・ウィナー」。
あの曲は全員を泣かせることもできるし、踊らせることもできる。
彼らの音楽は人を“動かす”んです。
その力を舞台の物語に持ち込む──特別なことですよ。

さらに今回の舞台では、
3人の主人公がそれぞれ観客に直接語りかけるようなソロ曲を歌います。
まるでシェイクスピアの独白のように、
他の登場人物には明かされていない“心の内側”を観客にだけ届けるのです。

この“直接語りかける形のエモーショナルな歌”を
ABBAの音楽で体験できるというのは、ミュージカルとして理想的な形のひとつであり、
ベニーとビヨルン、そしてティム・ライスの組み合わせが
非常にユニークな完璧さを持つ理由なんだと思います。

Q:『CHESS』と『マンマ・ミーア!』が同時にブロードウェイに戻ってきたのも、まるで運命みたいですよね。お気に入りのABBAの曲はありますか?

トベイト:(笑)
本当にそうですよね。

僕のいちばん好きな ABBA の曲は 「ザ・ウィナー」 です。
自分でも歌ったことがありますし、最近のコンサートでは最後に必ず歌っていました。

「僕が涙する曲が好きだということに気づいたんだ。これは必ず泣いてしまう曲なんだ」
と観客に話してから歌うんです。

Q:あなたは今年5月、MCCシアターの MISCAST25 で『CHESS』の「アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウェル」を亡き友ギャヴィン・クリールに捧げて歌いましたね。その意味を教えてください。

トベイト:
MCC側から声をかけてくれたんです。
僕もギャヴィンも何度も MISCAST に出演していて、
彼の MCCや演劇界への貢献を讃える時間をつくりたい、と言ってくれました。
とても光栄で、胸がいっぱいになりました。

ギャヴィンとは、これまで2度共演しています。
2016年に『レント』で「Take Me or Leave Me」を歌い、
2021年のパンデミック中には、
ロサンゼルスで同じテレビシリーズ(『アメリカン・ホラー・ストーリーズ』)に出演していて
同じ住居に滞在していたので、よく一緒に過ごしました。

当時は外出もできなかったけれど、同じ新型コロナ検査スケジュールだったから
安全に会うことができて、すごく濃い時間だったんです。
その年は MISCAST がオンライン開催で、
僕たちは『ジキル&ハイド』の「In His Eyes」を歌いました。
実はその時、“ほぼ”「アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウェル(I Know Him So Well)」を選びかけていたんです。

そして、僕たちはいつか三度目の MISCAST に出演したとき、
今度こそ「アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウェル(I Know Him So Well)」を歌うつもりでした。
それは叶わなかったけれど──
今回その曲を捧げたのは、ギャヴィンへのオマージュです。
彼はいつでもそこにいて、どんな舞台でも僕らと共にあります。

当時、僕はすでに『CHESS』出演が決まっていましたが、誰にも言っていませんでした。
だから今振り返ると、まるで“仕組まれていた”みたいに見えますが、実際は全く別の話でした。

僕は昔、彼(ギャヴィン・クリール)をアッパー・ウエスト・サイドでよく見かけていたんです。でも、子どもの頃から彼を崇拝していたからこそ、声をかけることなんてとてもできなかった。自己紹介どころか、言葉を発することさえできないほど、本当に“スターに会ったショック”で固まってしまって。

——わかりますとも!
僕が大学でミュージカルを聴きまくっていた頃、彼は僕より7〜8歳年上で、「僕はいつかギャヴィン・クリールになりたい」と本気で思っていました。
そして実際に友達になれたという事実が…信じられなかったし、彼と過ごしていてもずっとその気持ちは変わらなかった。
彼は本当に、本当に特別な人でした。

Q:『シュミガドゥーン!』のオリジナルキャストとしても活躍していましたよね。あの作品が不当とも言える早すぎる打ち切りのあと、こうしてブロードウェイで“第二の人生”を得たことについて、どう感じていますか?

(トベイト:)
(笑)『シュミガドゥーン!』は、最高に温かくて、劇場の世界に没入できて、ただただ楽しい物語のひとつだと思います。
特にシーズン1は、舞台ミュージカルとして完璧なんですよ。
だから、今回の舞台版を観に行けること、応援できることにワクワクしています。
とても仲の良い友人がダニー・ベイリー役を演じているので、本当に楽しみです。

Q:もうすぐ感謝祭ですね。この『CHESS』での経験について、いちばん“感謝していること”は何ですか?

トベイト:
今、ブロードウェイの舞台で仕事ができていることに感謝しています。
年齢を重ねるほど、その機会がどれほど貴重で希少なものかがわかってくるんです。
僕が言うのは変に聞こえるかもしれないけれど、本当にそうなんですよ。
次にいつ舞台に立てるかなんて、誰にもわからない。

だからこそ、
・作品に観客がついてくれる
・人々が観るのを楽しみにしてくれる
・自分自身も毎日劇場に行くのが楽しみで仕方ない

──こうした要素が全部そろうなんて、滅多にないことなんです。

全部が揃った今の状況は、本当に特別なこと。
この時間を持てていることに、心から感謝しています。

Aaron Tveit on Reviving CHESS & Why ABBA’s Music Remains “Timeless”

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