CHESSというゲームが複雑だと思っているなら、新たに上演されたブロードウェイ・リバイバル版『CHESS』を観てほしい。冷戦を題材にしたこのミュージカルは、冷戦ドラマを“冷戦級の頭痛”へと変えてしまう――もっとも、その頭痛は壮麗な歌声によって彩られてはいるのだが。
*『CHESS』でフローレンス・ヴァッシーを演じるリア・ミシェル
撮影:マシュー・マーフィー
本作をよく知らない人のために説明すると、『CHESS』はミュージカル史上屈指のパラドックスを抱えた作品だ。傑出したポップ・オペラ調のスコアが、扱いづらさで有名な脚本と結びついている。物語は冷戦時代、二人の世界チャンピオン――短気なアメリカの天才フレディ・トランパー(アーロン・トヴェイト)と、威厳あるソ連のグランドマスター、アナトリー・セルギエフスキー(ニコラス・クリストファー)――のCHESS対決を軸に展開し、そこにフレディの有能で忍耐強いセコンドであるフローレンス・ヴァッシー(リア・ミシェル)が絡み、やがて彼女はアナトリーに個人的な想いを抱くようになる。
*『CHESS』でアナトリー・セルギエフスキーを演じるニコラス・クリストファー
撮影:マシュー・マーフィー
本作は、三角関係と東西冷戦のプロパガンダ、監視、心理戦を融合させようと試みているが、これらの要素が完全に噛み合ったことは一度もない。
『CHESS』は1980年代初頭、ABBAのベニー・アンダーソンとビヨルン・ウルヴァースが作曲し、歌詞をティム・ライスが手がけて構想された。まずコンセプト・アルバムとして大ヒットし、国際的なシングルを生み、1986年にロンドンで初演。その後、度重なる改稿を経て1988年にブロードウェイで上演されたが、結果は失敗に終わった。それ以来、ファンは音楽に固執し続け、演出家たちは物語を修復しようと試みてきたが、成功した例はほとんどない。
今回のブロードウェイ・リバイバルもまた、不可能とも思える挑戦に挑んでいる。演出はマイケル・メイヤー、脚本はダニー・ストロング。企画段階では、これは理にかなった再構築に思えた。メイヤーは感情的なポップ/ロック作品(『スプリング・アウェイクニング』『アメリカン・イディオット』)で定評があり、ストロングは複雑な政治的物語を構築する才能(『ドープシック』『エンパイア』)で知られているからだ。しかし実際の舞台は、作品に対して弁解しているのか、再現しているのか、その狭間に宙づりにされた印象を与える。そして結局のところ、夜を支えるのは三人のスターによる歌唱力に頼っている。
*『CHESS』でアービター(審判)を演じるブライス・ピンカム
撮影:マシュー・マーフィー
この『CHESS』が従来型の上演ではないことを最も端的に示しているのが、アービター(審判役)の拡張だ。今回は完全な司会者(エムシー)として機能している。『紳士のための愛と殺人の手引き』で知られるブライス・ピンカムが、狂騒的な切れ味でこの役を演じ、語り、冗談を飛ばし、論評し、そして常に「これは混乱した歴史を持つ冷戦ミュージカルなのだ」と観客に念押しする。そのコメント量の多さが、登場人物自身が息づく余地を奪っている。本来なら緊張感が高まるはずの場面も、アービターが今見ているものを説明したり(あるいは嘲笑したり)するために、流れが完全に止まってしまう。
メイヤーの演出は、こうした準コンサート的な雰囲気をさらに強めている。アンサンブルは舞台両脇のベンチに座り、バックコーラスのように状況を見守る。CHESSの対局は演技として描かれず、マイクに向かってアナウンスされるだけで、まるでラジオ放送に迷い込んだかのようだ。ネオンの四角形が降り、映像投影が明滅し、舞台装置はわずかな平台のみ。全体としては、高予算のコンサート形式であることを隠そうともしない舞台となっている。
だが『CHESS』がコンサートとして成立するのであれば、それを成立させるだけの出演者が揃っている。2023年の『スウィーニー・トッド』リバイバルでスタンバイを務めたニコラス・クリストファーは、響きのある声と落ち着いた思慮深さでアナトリーを演じる。キャラクター造形自体は大まかだが、その存在感は確かだ。一方、同じく『スウィーニー・トッド』で主演を務めたアーロン・トヴェイトは、フレディのナンバー「かわいそうな子(ピティ・ザ・チャイル)」を高らかに歌い上げる。演技が深く掘り下げられているとは言い難いが、そのパワーバラードは強烈なインパクトを残す。
『スプリング・アウェイクニング』でブレイクし、『glee/グリー』でポップ・シアターの現象となり、近年の『ファニー・ガール』を救った存在とも評されるリア・ミシェルは、圧倒的なスター性と澄み切った歌声を提供する。「ノーバディーズ・サイド」「ヘヴン・ヘルプ・マイ・ハート」、そしてハンナ・クルーズとのデュエット「アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウェル」が成功するのは、フローレンスという人物像が緻密に描かれているからではなく、ミシェルがそれらを確信と集中力をもって歌い切るからだ。
2023年の『メリリー・ウィー・ロール・アロング』リバイバルが、別の“問題作”だった80年代ミュージカルを見事に整理してみせたことで、『CHESS』にも同様のブレイクスルーが訪れるのではという期待があった。しかし、今回はその突破口とはならない。それでも、語りが静まり、音楽が前面に出た瞬間、作品は大きく羽ばたく。だからこそ人々は、この作品を何度も蘇らせようとするのだ。
ドラマとしての『CHESS』は、いまだに難解なパズルのままだ。しかしコンサートとしてなら、実にスリリングであり、このプロダクションでは最終的にそこが勝利を収めている。
インペリアル・シアター(249 West 45th St.)
chessbroadway.com
5月3日まで上演


