ABBA『ザ・ヴィジターズ』(1981年)に収録された過小評価の楽曲——本来ならヒットすべきだった1曲
スウェーデン発の伝説的ポップグループ、ABBA(アグネタ・フェルツコグ、ビヨルン・ウルヴァース、ベニー・アンダーソン、アンニ=フリード・リングスタッド)は、音楽業界において確固たる地位を築いてきました。
ストリーミングプラットフォームが存在しなかった時代に、彼らは自らの道を切り拓いていった数少ないアーティストの一組です。当時はチャートの順位やレコードの売上こそがすべてでした。
しかし、キャッチーなメロディの数々によって、彼らは「時代を超えた名曲」を生み出すグループとして不動の評価を得ました。代表曲には「テイク・ア・チャンス」「悲しきフェルナンド」「ザ・ウィナー」「ダンシング・クイーン」などがありますが、中でもひときわ心温まる曲が存在します。それが1981年に発表された「スリッピング・スルー」です。リリース当時からすでに郷愁を帯びた楽曲でしたが、現在ではさらに深い意味合いを持ち、多くのリスナーの心に強く響いています。
ABBAは、バイラルヒットを必要としないグループです。『マンマ・ミーア!』のミュージカルやその映画化によって、ABBAの音楽は何世代にもわたって受け継がれる存在となりました。とはいえ、TikTokなどのSNSによる再注目も決してマイナスにはなっていません。実際、SNSのおかげで新たな世代のリスナーにABBAの楽曲が届き続けており、数十年経った今でも、彼らの音楽が年齢を超えて人々の心に響くことが証明されているのです。
その一例が「スリッピング・スルー」。この曲は最近再評価されており、TikTok上では多くのユーザーが思い出や大切な記憶にこの曲を添えて共有するようになっています。その多くが、ほろ苦くも切ない感情を伴っていて、曲の持つ哀愁と深く共鳴しています
「スリッピング・スルー」の背景
ABBAの8作目のスタジオアルバム『ザ・ヴィジターズ』に収録された「スリッピング・スルー」は、非常にシンプルでありながらも心に深く刺さるバラードです。
この曲では、母親が成長していく娘を見守りながら、子ども時代の一瞬一瞬がいかに儚く、すぐに手のひらからこぼれ落ちてしまうものかを切々と歌っています。
冒頭の歌詞からして、そのテーマはすぐに伝わります。
「ランドセルを背負って/朝早くに家を出ていく娘
心ここにあらずのような笑顔で手を振る
私はその姿を見つめながら/こみあげるあのよく知った切なさに
思わず座り込まずにはいられなかった」
そしてブリッジでは、その感情がさらに高まります。
「時々、あの瞬間を凍らせられたらと願う
時のいたずらから守るために
すり抜けていく私の指のあいだから——」
何よりも、この曲に深い感情を与えているのは、その裏にある実際のストーリーです。
作詞・作曲を手がけたベニー・アンダーソンとビヨルン・ウルヴァースは、どちらも自身の父親としての経験をこの楽曲に込めています。
イギリスのGold Radioのインタビューで、司会のジェームズ・バッサムが「特に思い入れのある曲は?」と尋ねた際、ビヨルンはこう語っています:
「一番印象深い曲のひとつは『スリッピング・スルー』ですね。『マンマ・ミーア!』のミュージカルでも使われています。
あの曲は、私の長女のことを書いたものです。彼女が6歳か7歳の頃、家の近くに学校があったので一人で通学することを許したんです。彼女はとても誇らしげで、バッグかリュックを背負って学校へ向かい、自分で通うことにとても満足していました。
彼女が振り返って、誇らしげに手を振った姿を今でも覚えています。あれは独り立ちへの第一歩であり、同時に私は彼女を少しずつ手放していく瞬間でもあった。
彼女が私の指の間をすり抜けていくような、そんな感覚でした。だからこの曲は、とても個人的な思いが込められているのです」。
「スリッピング・スルー」は今も生きている
この楽曲は2008年の映画『マンマ・ミーア!』でメリル・ストリープが感情を込めて歌ったことで再評価され、昨年にはアーティストのディクラン・マッケンナがカバーを発表するなど、さまざまな形で再び命を吹き込まれています。
「スリッピング・スルー」は、ただの懐かしい曲ではなく、静かな朝や感傷的な夜にぴったりの一曲であり、すべての親、あるいは親でない人々にとっても、「人生のかけがえのない瞬間を大切にすること」の大切さをそっと教えてくれる、心温まるメッセージなのです。
色とりどりの衣装の裏にある、ABBAの本当の魅力
1970年代に一躍スターダムにのし上がったABBAは、今や世界でも有数のセールスを記録するアーティストであり、数々の賞を受賞してきました。
1982年に活動を停止した後も、彼らの音楽は時代を超えて愛され続けており、その代表がミュージカル『マンマ・ミーア!』です。
代表曲には以下のような楽曲が挙げられます:
- 「きらめきの序曲」
- 「SOS」
- 「恋のウォータールー」
- 「ザ・デイ・ビフォア・ユー・ケイム」
- 「マネー、マネー、マネー」
- 「ギミー! ギミー! ギミー!」
ほか多数。