ABBA、『CHESS』、そして冷戦——本来うまくいくはずのない組み合わせが見事に機能するミュージカル
*【レビュー】ノーバリー・シアターで上演された『CHESS ザ・ミュージカル』のキャストたち。(写真提供:ノーバリー・シアター)
ABBAの音楽、『CHESS』、そして冷戦という組み合わせのミュージカルは、普通なら「うまくいくはずがない」と思うだろう。
だが、ドロイトウィッチのノーバリー・シアターで上演された『CHESS ザ・ミュージカル(Chess The Musical)』のキャストたちは、その常識を見事に覆してみせた。
物語は冷戦時代の真っ只中を舞台に、二人の男性CHESS・グランドマスター——傲慢なアメリカ人フレデリック・トランパー(フランキー・ブリンコー)と、感情的に引き裂かれたソ連のアナトリー・セルギエフスキー(デイヴィッド・ブラッドリー)——が、世界王者の座とひとりの女性の心をめぐって戦う姿を描く。
観客は、ブリンコーが舞台に登場した瞬間から、彼が演じるフレデリックの奔放で激しい性格にすぐさま引き込まれる。
ブリンコーは、怒りと予測不能な感情に満ちた人物像を見事に体現しており、幼少期のトラウマを抱える彼の姿が、観客に“ロシアの純粋なチェスの求道者”アナトリーへの共感を抱かせるのだ。
ブラッドリーは、感情的に引き裂かれ、足の負傷を抱えながら舞台上を歩き回るという難しい役どころを見事に演じきった。
彼はこの日のキャストの中でも特に力強い歌声を響かせ、舞台いっぱいにオペラのような声量を放っていた。
第2幕では、「ワン・ナイト・イン・バンコク(One Night in Bangkok)」の登場によって、さらに物語への没入感が増した。
しかし、その中でも最も印象的だったのは、スヴェトラーナ・セルギエフスカヤ(ジョー・ハーグリーブス)とフローレンス・ヴァッシー(アマンダ・ブロックリー)が歌うデュエット「アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウェル(I Know Him So Well)」だった。
フローレンス役のブロックリーは、2人のグランドマスターの間で揺れるハンガリー人難民の恋人を演じ、そのプロフェッショナルな演技で作品に深みを与えた。
彼女の最後のナンバーはまさに圧巻で、胸が締め付けられるような感動的な名演だった。
一方、アナトリーの妻スヴェトラーナを第2幕でのみ演じたハーグリーブスも、短い出番ながら強烈な印象を残した。
物語が進むにつれ、キャストたちはCHESS盤を模した舞台上で、登場人物たちの内なる葛藤と外的対立を、光と影、そしてテレビスクリーンを駆使して表現していく。
また、今回特に印象的だったのは、オーケストラが舞台上で生き生きと演奏していたことで、音楽が物語をさらに引き立てていた。
全体を通して、キャストたちは歴史的背景やCHESSの専門的要素を持つこの難解な作品を、見応えのあるステージへと昇華させていた。
『CHESS ザ・ミュージカル』は、アクション性の高い作品を好む観客にとっては、やや難しい内容に感じられるかもしれない。
しかし、このキャストたちは、小劇場ドロイトウィッチ・ノーバリー・シアター(※)の舞台で、その才能と情熱を存分に発揮し、実にエンターテインメント性の高い公演に仕上げていた。
『CHESS ザ・ミュージカル』は、ノーバリー・シアターで11月1日(土)まで上演される。
※ドロイトウィッチ・ノーバリー・シアター(Norbury Theatre, Droitwich)とは、
イングランドのウスターシャー州ドロイトウィッチ・スパ(Droitwich Spa)にある地域密着型の劇場です。
この劇場は100年以上の歴史を持ち、地元のアマチュア劇団「ドロイトウィッチ・アマチュア・オペラティック・アンド・ドラマティック・ソサエティ(Droitwich Amateur Operatic and Dramatic Society, 通称DAODS)」が拠点として活動しています。
演劇、ミュージカル、コメディ、子ども向けパントマイムなど、幅広い公演が年間を通して行なわれており、地元コミュニティの文化拠点として親しまれています。
また、劇場内にはバーやロビー、スタジオスペースもあり、ワークショップや音楽イベント、教育的な活動も頻繁に開催されます。
規模は比較的小さいながらも、アットホームな雰囲気と高い芸術性で知られ、地域の演劇文化を支える重要な存在となっています。
https://uk.news.yahoo.com/abba-chess-cold-war-musical-120600195.html

