ABBAから“ヘリテージ・フォレスト(生物多様性の森)”まで

次のオルタナティブ投資(※)の波を生み出す、思いがけない組み合わせ

ますます多くのLP(機関投資家)が、パブリック・マーケット(公開市場)のサイクルに左右されず、それでいて明確な“目的”を備えた資産を求めている。
予測可能なキャッシュフローを欲しながら、同時に文化的あるいは環境的価値と結びついた投資を求めているのだ。

一般的にプライベート・エクイティの世界で「オルタナティブ投資」といえば、インフラ、クレジット、セカンダリー市場を指す。
しかし Pophouse Entertainment と Qarlbo Biodiversity にとってのオルタナティブとは、ABBA とキツツキである。
彼らは音楽カタログをスケール可能なブランドへ変え、森林を“生物多様性エンジン”へと変える──そのキャッシュフローの動きは、公開市場とはまったく異なる。

Pophouse Entertainment のパートナー兼資金調達・IR責任者であるナタリア・フォンテチャがモデレーターを務め、Qarlbo Biodiversity CEO のアレクサンドラ・ホルムルンドとともに、商業的に本気でありながら文化的にも大胆な、2つの投資戦略が語られた。

Pophouse と Qarlbo は同じ Qarlbo Group の傘下にあるものの、その世界はまったく異なる。
ひとつは“サウンドトラック”に根ざし、もうひとつは“土壌”に根ざしている。
フォンテチャはこう表現した。
「私たちは音楽と投資の世界を組み合わせ、アーティストとパートナーを組み、投資家に生涯一度のチャンスともいえる機会を提供しています」。
一方ホルムルンドのミッションも常識破りだ。
「生物多様性を新たなアセットクラスにし、森林投資を次のレベルへ引き上げること」。

投資家は“ストーリーテラー”である

Pophouse は単なる著作権収入(ロイヤルティ)を得るためのビークルではない。
アーティストを“文化的ブランド”として捉え、その文化的エクイティを世代と地域を超えて拡大していく。
フォンテチャは言う。
「私たちは音楽カタログを買って棚に並べておくためにやっているのではありません。それらを“再び生命を吹き込む”のです」。

このアプローチにより、Pophouse は“インスティテューショナル(機関投資家)資本が支えるクリエイタースタジオ”のように活動することが可能となる。
戦略は、『マンマ・ミーア! ザ・パーティー』などの没入型エンターテインメントで新たな収益源を構築しつつ、シンディ・ローパーやKISSのようなレガシーアーティストを再活性化し、それぞれのカタログを“長期のプライベート・エクイティ資産”として国際的に拡大していくものだ。

これは本質的に、ソーシャルメディア時代に適応した戦略でもある。
音楽の価値とリーチはアルゴリズムそのものになった。
フォンテチャは、19歳の姪がTikTokでABBAを知った例を挙げた。
「私たちは、音楽を広めるために新しい形式を見つけるべく、ソーシャルメディアの瞬発力を活用しています」。

フォレストリー2.0:生物多様性という“アップグレード”

Qarlbo Group のもう一方の柱である森林資産は、エンタメIPとはまったく異なる動きを見せる。
しかし、“目的と経済合理性を両立したオルタナティブ投資”という構造的ロジックは共通している

ホルムルンドは、Qarlbo の創業者コンニ・ヨンソンから“気候志向の植林プロジェクト”を持ちかけられた時のことを語った。
彼女の返答が、この戦略の方向性を決定づけた。
「生物多様性について考えたことはありますか? 私は、生物多様性が次の大きなテーマになると思っています」。

同社がルイジアナ州で行っているプロジェクトは、森林資産に生物多様性を統合するモデルとなっている。
ひとつのプロジェクトでは、古い松の木を巣作りに使う “レッドコカーデッド・キツツキ” の保護を行っている。
別のプロジェクトでは、成長が遅いため商業林業では敬遠されてきた ロングリーフパイン(長葉松) の再生に取り組んでいる。
樹種構成を変えることで、生態系を修復しつつ土地の生産性も維持するのが狙いだ。

では、これをどうビジネスにするのか?
答えは、木材生産に“生態系サービスへの支払い”を組み合わせることである。
これには炭素クレジット、生物多様性クレジット、政府助成金など複数の収入源が含まれる。
結果として、ポートフォリオは市場サイクルとは無関係に“生物的成長”を続ける。
ホルムルンドはこう言い添えた。
「木はフィナンシャル・タイムズなんて読みませんから」。

プライベート資本が“ポップカルチャー”と“自然資本”に出会う時

Pophouse と Qarlbo の両社は、長期資産を“意味を損なうことなくスケールし収益化できる生きたシステム”として扱う。
レガシー(遺産)もまた、絶えず成長させるべきものと見なしている。
そして、これまで機関投資家の投資対象外だった資産に、プライベート・エクイティを通じて新たな生命を吹き込もうとしている。

出口(エグジット)戦略にもそれは表れている。
フォンテチャは言う。
「戦略的買い手か、別の金融投資家へ売却します。長期的な収益エンジンとなる資産には継続ファンドも選択肢です」。
ホルムルンドは、森林資産の売却について、分割売却もパッケージ売却もあり得るが、
「最終的には機関投資家やプロの投資家へ渡ることが多い」 と述べる。

両社の主張は異なるものの、向かう方向は同じだ。
投資家はオルタナティブ資産の概念を拡張しつつあり、このカテゴリーはより広く、より創造的なものへと進化している。

(文:Andreea Melinti)

※オルタナティブ投資とは?

株式・債券などの伝統的な投資(トラディショナル資産)以外に投資することを指します。
「オルタナティブ(alternative)」は“代替的な”の意味で、通常の市場とは異なる動きをする資産を対象にします。

■ 主な特徴

① 公開市場(株式市場など)と動きが異なる

→ 市場が不安定になっても、値動きや収益が比較的安定しやすい。

② 分散投資効果が高い

→ 株・債券と同じ動きをしないため、リスクを分散できる。

③ 流動性が低いことが多い

→ すぐに売買できない資産が多い(例:不動産、アート、森林など)。

④ 長期投資が前提

→ 資産価値やキャッシュフローがゆっくり育つタイプが多い。


■代表的なオルタナティブ資産

カテゴリー
不動産 住宅、商業用不動産
ヘッジファンド 市場と逆相関の戦略など
プライベート・エクイティ 非上場企業への投資
インフラ投資 発電所、道路など
コモディティ 金、原油
音楽カタログ ABBA、KISSなどの著作権資産(最近増加)
自然資本 森林、生態系サービス、炭素クレジット
アートやワイン 絵画、ヴィンテージワイン

近年は
● 音楽カタログ(Pophouse など)
● 森林資産・生物多様性(Qarlbo Biodiversity など)

といった“文化”や“自然”を価値と捉える新形式のオルタナティブも注目されています。

■ 何が魅力なのか?

1. 株式市場の上下に左右されにくい

例:森は株式市場が暴落しても成長し続ける
(※記事中のセリフ「木はフィナンシャル・タイムズを読まない」)

2. 文化価値・自然価値を収益モデルにできる

例:ABBAの楽曲 → 没入型ショー、IP活用で長期キャッシュフロー
例:森林 → 木材・炭素クレジット・生物多様性クレジット

3. 長期で安定した収益を期待できる

保険会社・年金基金など長期志向の投資家が強い関心を示している。

■ まとめ

オルタナティブ投資とは、株でも債券でもない「新しい価値」を投資対象とする手法。
・文化(音楽・IP・エンタメ)
・自然(森林・生物多様性)
・インフラ
・非上場企業
などを活用し、長期的で安定したキャッシュフローと、社会的意義の両方を追求する投資です。

From ABBA to heritage forests: the unexpected marriage driving the next wave of alternatives

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です