ウェストエンド版『マンマ・ミーア!』サウンドトラックの全曲解説はこちら!
ウェストエンド史上5番目に長く上演され続けている『マンマ・ミーア!』は、まるで太陽の光のように気分を明るくしてくれる作品です。この元気いっぱいのミュージカルは、既存のアーティストの楽曲をベースにした「ジュークボックス・ミュージカル」ブームの先駆けともいえる存在で、ここではスウェーデンのバンドABBAの楽曲がふんだんに使用されています。レコーディングスタジオに足跡を残した最高峰のポップ作曲家たちによる、70年代の中毒性のある名曲が詰め込まれた『マンマ・ミーア!』は、まさに時代を超えた音楽の証明です。
「これらのABBAの名曲が、ギリシャの島での結婚式を描いたストーリーにどう組み込まれているのか知りたい」「あの頭に残る曲はどれだったっけ?」という方のために、ここでミュージカル『マンマ・ミーア!』の全曲を解説します。
第1幕(Act One)
- Overture/Prologue(序曲/プロローグ)
- ハニー、ハニー(Honey, Honey)
- マネー、マネー、マネー(Money, Money, Money)
- サンキュー・フォー・ザ・ミュージック(Thank You For The Music)
- マンマ・ミーア(Mamma Mia)
- チキチータ(Chiquitita)
- ダンシング・クイーン(Dancing Queen)
- レイ・オール・ユア・ラヴ・オン・ミー(Lay All Your Love On Me)
- スーパー・トゥルーパー(Super Trouper)
- ギミー!ギミー!ギミー!(Gimme! Gimme! Gimme! (A Man After Midnight))
- きらめきの序曲(The Name Of The Game)
- ヴーレ・ヴ―(Voulez-Vous)
第2幕(Act Two)
- アンダー・アタック(Under Attack)
- ワン・オブ・アス(One Of Us)
- エス・オー・エス(SOS)
- ダズ・ユア・マザー・ノウ(Does Your Mother Know)
- ノウイング・ミー、ノウイング・ユー(Knowing Me, Knowing You)
- アワ・ラスト・サマー(Our Last Summer)
- スリッピング・スルー(Slipping Through My Fingers)
- ザ・ウィナー(The Winner Takes It All)
- テイク・ア・チャンス(Take A Chance On Me)
- アイ・ドゥ・アイ・ドゥ(I Do, I Do, I Do, I Do, I Do)
- アイ・ハヴ・ア・ドリーム(I Have A Dream)
- 恋のウォータールー(Waterloo)
「Overture/Prologue(序曲/プロローグ)」
オーケストラによるイントロダクションでミュージカルの主要なメロディが演奏された後、物語は20歳のソフィーが結婚を控え、父親探しの旅に出る場面から始まります。母親ドナの日記を読んだソフィは、自分の父親候補を3人に絞り、彼らそれぞれに結婚式の招待状を送るためにこっそり出かけながら「アイ・ハヴ・ア・ドリーム」の一節を歌います。
キー・リリック:
「たとえ失敗しても、未来を掴むことはできる」
「ハニー、ハニー(Honey, Honey)」
3人の男性がそれぞれ、招待状がソフィーの母ドナから来たものだと勘違いして参加することになった後、ソフィは母の日記を親友2人に読み聞かせ、ドナがかつて体験した恋愛を語ります。
「ハニー、ハニー」は、ABBAが「恋のウォータールー」1974年のユーロビジョン・ソング・コンテスト優勝曲)で大成功を収めた後にリリースされた最初のシングルで、彼らの2枚目のアルバムに収録されています。この曲のスウェーデン語バージョンは、バンドが自国語で公式に録音した最後の作品でもあります。
キー・リリック:
「あなたのことは前から聞いていた/もっと知りたいと思ったの」
「マネー、マネー、マネー(Money, Money, Money)」
親友のターニャとロージーと再会したドナは、自身の金銭的な悩みを語ります。タベルナ(小さな宿兼飲食店)の経営者である彼女は、1人で店を切り盛りするのに苦労しており、裕福な男性と結婚できたら…と夢を見ます。
「マネー、マネー、マネー」は、ABBAの4枚目のスタジオアルバム『アライヴァル』に収録され、同アルバムの2番目のシングルとして発表されました。曲の元々のコンセプトは、いくら働いても生活が楽にならない女性についてで、まさにドナの状況に近いテーマです。
キー・リリック:
「夜も昼も働いて/支払いに追われる日々」
「サンキュー・フォー・ザ・ミュージック(Thank You For The Music)」
サム、ビル、ハリーの3人の父親候補が島に到着し、ソフィと交流します。ソフィは彼らに、自分が招待したことをドナには秘密にしてほしいと頼みます。ソフィーは3人が一堂に会したことに喜び、この曲を共に歌います。
「サンキュー・フォー・ザ・ミュージック」は、ABBAの5枚目のアルバムに収録され、シングル「イーグル」との両A面でリリースされました。
キー・リリック:
「歌やダンスがなければ、私たちは何なの?/だから音楽に感謝する、私に与えてくれた音楽に」
「マンマ・ミーア(Mamma Mia)」
ドナはかつての恋人3人と偶然再会し、動揺して泣きながらその場を去ります。彼女の感情の爆発が、このショーのタイトル曲「マンマ・ミーア」として表現されます。このシングルはABBAのセルフタイトル3枚目のアルバムからリリースされました。「マンマ・ミーア」というイタリア語の感嘆詞をマネージャーのスティッグ・アンダーソンが曲名に提案し、ビヨルンとベニーがそれを元に歌詞を作りました。
キー・リリック:
「そう、私は心を痛めていた/別れた日からずっと憂鬱」
「チキチータ(Chiquitita)」
ターニャとロージーは落ち込むドナを慰めるため、このデュエットを歌います。「チキチータ」はABBAの6枚目のアルバム『ヴーレ・ヴ―』からの最初のシングルで、バンドはスペイン語版も録音しました。スペイン語を習ったことがなかったため、歌詞は発音を丸暗記して録音したそうです。
キー・リリック:
「チキチータ、どうしたの?/こんなに悲しそうな目を見たことがない/明日は結婚式なのに」
「ダンシング・クイーン(Dancing Queen)」
ドナを元気づけようと、ターニャとロージーは過去に結成していたガールズ・グループ「ドナ&ザ・ダイナモス」の思い出を語り、かつての自分を思い出させようとします。
ABBAの4枚目のアルバムからのリードシングルである「ダンシング・クイーン」は、ABBA唯一の全米No.1ヒットとなり、英国を含むヨーロッパの多くの国でチャートのトップに立ちました。メンバーのフリーダは、この曲のバックトラックを初めて聴いたとき、ボーカルが入っていなくても涙が出たと語っています。それほどまでに、この曲がバンド最高の作品だと直感したのです。
キー・リリック:
「あの娘を見て、あのシーンを見て/ダンシング・クイーンに夢中」
「レイ・オール・ユア・ラヴ・オン・ミー(Lay All Your Love On Me)」
ソフィは婚約者のスカイに、3人の父親候補のことを打ち明けようとしますが、彼らを結婚式に招いたことまでは話しません。スカイは、彼こそが彼女にとって唯一必要な男性だと語り、2人はこのデュエットを歌います。その後、スカイの友人たちが現れて、彼をバチェラー・パーティーへ連れて行きます。
「レイ・オール・ユア・ラヴ・オン・ミー」は、ABBAの7枚目のアルバム『スーパー・トゥルーパー』から後期にリリースされたシングルです。ミュージカル版ではより陽気な雰囲気ですが、原曲は恋愛の執着がもたらす無力感を描いています。
キー・リリック:
「あなたの愛を他の誰かに向けないで/私にすべて注いで」
「スーパー・トゥルーパー(Super Trouper)」
ソフィのヘン・パーティー(女性版バチェラー・パーティー)では、ドナ、ターニャ、ロージーがかつての衣装をまとって「ドナ&ザ・ダイナモス」として再結成し、この曲を披露します。
この曲は、ABBAの7枚目のアルバム『スーパー・トゥルーパー』のタイトル曲でもあります。”スーパー・トゥルーパー”とは、大規模なステージで使われるフォロースポット(追尾型ライト)のこと。ツアー生活に疲れたスターが、ついに恋人が観に来る夜を迎える様子が描かれています。
キー・リリック:
「今夜、Super Trouperのライトが私を照らしてくれる/でももう悲しくなんかない/だってその観客の中に、あなたがいるから」
「ギミー!ギミー!ギミー(Gimme! Gimme! Gimme! (A Man After Midnight))」
サム、ビル、ハリーの3人は偶然ヘン・パーティーに迷い込み、ゲストたちは彼らを引き留めます。ソフィは3人とそれぞれ話をし、父親が誰なのかを探ろうとします。やがて、ビルが“大おばのソフィア”について話したことで、ソフィは自分が彼の血を引いているのではと感じ始めます。
この曲はABBAのベストアルバム『Greatest Hits Vol. 2』のために録音されたシングルで、彼らが他のアーティストにサンプリングを許可した数少ない楽曲のひとつです。2005年にマドンナが「ハング・アップ(Hung Up)」で使用しています。
キー・リリック:
「真夜中すぎに現れる男性が欲しいの/誰か影を追い払ってくれない?」
「きらめきの序曲(The Name Of The Game)」
パーティーの後、ソフィはビルと2人きりになります。彼女は彼が父親かもしれないと告げますが、ビルは最初は戸惑いを見せます。しかし、最終的には結婚式で彼女とバージンロードを歩くことに同意します。
この曲の歌詞はもともと恋愛の文脈で書かれたもので、ソフィが自分の弱さを認め、ビルに心を開くよう訴える形になっています。
「きらめきの序曲」は、ABBAの5枚目のアルバム『ABBA: ジ・アルバム』から最初にリリースされたシングルです。
キー・リリック:
「お願い、教えて/私は成長途中の好奇心旺盛な子どもなの」
「ヴーレ・ヴー(Voulez-Vous)」
父親探しの謎が解けたかに思えたソフィですが、物事はさらに複雑に。バチェラー・パーティーとヘン・パーティーが合流し、サムとハリーがそれぞれソフィーに自分が父親だと信じていると告げます。2人とも彼女とバージンロードを歩きたいと申し出てきて、ソフィは混乱と戸惑いに陥ります。
この曲はABBAの6枚目のアルバム『ヴーレ・ヴー』からのシングルで、クラブ向けの曲として知られています。歌詞の内容は物語とは直接関係ありませんが、パーティーシーンの雰囲気を盛り上げています。
キー・リリック:
「Voulez-vous/今すぐ答えて/今がすべて/後悔しないで」
「アンダー・アタック(Under Attack)」
結婚式の前夜、ソフィは悪夢にうなされます。夢の中では、3人の父親候補が皆、自分こそがバージンロードを一緒に歩く相手だと主張し、争います。
原曲はABBAのコンピレーション・アルバム『The Singles: The First Ten Years』に収録されたもので、若干異なる歌詞で、女性がストーカーに追われるという不気味な内容でした。これはABBAがリリースした最後のシングルです。
キー・リリック:
「攻撃されてる、隠れなきゃ/彼らが迫ってくる、3人の父と1人の恋人」
「ワン・オブ・アス(One Of Us)」
悪夢から目覚めたソフィは混乱し、結婚式当日にもかかわらず取り乱しています。ドナはその様子に驚き、理由を尋ねますが、ソフィは「父親がいない人生を与えたのはあなたのせい」と怒りをぶつけてしまいます。
ソフィが去った後、ドナは過去の恋を回想し、いまだに心の傷を癒せずにいることを思い知らされます。
この曲はABBAの8枚目のアルバム『ザ・ヴィジターズ』からのリード・シングルで、ABBAが最後に全英1位を獲得した楽曲です。
キー・リリック:
「待ってるだけの私/惨めで、愚かで、小さな存在のように感じてる/あの時離れなければよかったのに」
「エス・オー・エス(SOS)」
サムはドナにソフィのことで話しかけ、2人は口論になります。やがて互いにいまだに気持ちが残っていること、そして違う人生があり得たかもしれないという未練を語り合います。
この曲はABBAの3枚目のセルフタイトル・アルバム『ABBA』からの5枚目のシングルで、ABBAがポップ・サウンドを完成させる上で重要な楽曲です。
ちなみに、曲名とアーティスト名の両方が回文(前から読んでも後ろから読んでも同じ)になっている唯一の全英トップ20ヒットです。
キー・リリック:
「私たちの愛はどうなってしまったの?/あんなに素敵だったのに」
「ダズ・ユア・マザー・ノウ(Does Your Mother Know)」
一方その頃、ビーチでは、タベルナのスタッフであるペッパーがターニャにしつこく言い寄っています。彼が若すぎることを理由に、ターニャは彼をからかいながらも、軽くあしらいます。
この曲はABBAの6枚目のアルバム『ヴーレ・ヴー』からのシングルで、数少ない男性リード(ビヨルン)の楽曲としても知られています。アグネタとフリーダはバックボーカルで参加しています。
キー・リリック:
「一緒に踊ってもいいわよ/あなたが面白いって思うならね/でもお母さんに言ってあるの?」
「ノウイング・ミー、ノウイング・ユー(Knowing Me, Knowing You)」
スカイは、ソフィが父親探しを秘密にしていたことに怒り、失望します。ソフィはサムに慰めを求めますが、サムは自身の失敗した結婚について語ることで励まそうとします。しかしソフィには、あまり響きません。
この曲はABBAの4枚目のアルバム『アライヴァル』に収録されています。グループ内の2組の夫婦の関係が悪化していた時期に書かれたこともあり、別れの切なさが込められた作品です。
キー・リリック:
「別れはいつだってつらい/でも行かなくちゃいけないの」
「アワ・ラスト・サマー(Our Last Summer)」
ハリーはドナに、結婚式費用を支援したいと申し出ます。そして2人は20年前のパリでの夏の恋を振り返ります。
この曲はABBAの7枚目のアルバム『スーパー・トゥルーパー』に収録されており、ビヨルンが10代の頃にパリで経験した恋を基に書かれたものです。なお、歌詞中で女性ボーカルが「ハリー」と名指しすることから、ミュージカルではこのキャラクターに「ハリー」という名前がつけられました。
キー・リリック:
「今は銀行で働くあなた/家庭を持って、サッカー好きで/名前はハリーだったわね」
「スリッピング・スルー(Slipping Through My Fingers)」
ドナはソフィの支度を手伝いながら、親子の関係を修復します。ソフィはドナに、バージンロードを一緒に歩いてほしいと頼みます。
ドナは娘が成長し、手の届かない存在になっていくことに、胸が締め付けられるような思いを抱きます。
このバラードはABBAの8枚目のアルバム『ザ・ヴィジターズ』に収録されており、ビヨルンとアグネタの娘リンダ(当時7歳)を想って書かれました。
キー・リリック:
「彼女の世界に入り込めないまま/永遠に失ってしまいそうな気がする」
「ザ・ウィナー(The Winner Takes It All)」
ドナとサムは再び向き合い、ドナは彼に傷つけられたことを率直にぶつけます。彼女はすべてを吐き出し、この壮大なバラードを熱唱します。
この曲はABBAの7枚目のアルバム『スーパー・トゥルーパー』からのリード・シングルで、フィクションの離婚を題材にしているものの、ビヨルンとアグネタの実際の離婚もインスピレーションの一部となっています。
キー・リリック:
「私たちが通り過ぎてきたことは話したくない/それは今も私を傷つけるけれど、もう過去のこと」
「テイク・ア・チャンス(Take A Chance On Me)」
結婚式を前に、ビルはソフィとバージンロードを歩けないことを残念に思っています。独身主義を貫くと言う彼に、ロージーは「私にチャンスをちょうだい」とアピールする陽気なナンバー。
この曲はABBAの5枚目のアルバム『ABBA: ジ・アルバム』からのセカンド・シングル。1992年にイレイジャーがカバーしたことで、ABBAリバイバルが英国で巻き起こりました。
キー・リリック:
「気が変わったら、一番に私を思い出して/私はまだ自由よ、私にチャンスを」
「アイ・ドゥ・アイ・ドゥ(I Do, I Do, I Do, I Do, I Do)」
結婚式では混乱が続き、ソフィとスカイは「結婚するにはまだ早い」と判断し、結婚を取りやめます。ドナは3人の中で誰が父親か分からないことを認め、サムは意を決して彼女にプロポーズします。ドナはそれを受け入れ、すでに準備されていた結婚式をそのまま2人のものにします。
この曲はABBAの3枚目のセルフタイトル・アルバムからの3番目のシングルです。
キー・リリック:
「あなたを愛してるわ/アイ・ドゥ、アイ・ドゥ、アイ・ドゥ、アイ・ドゥ、アイ・ドゥ」
「アイ・ハヴ・ア・ドリーム(I Have A Dream)」
ソフィとスカイは結婚せずに、世界を旅することを選びます。
「アイ・ハヴ・ア・ドリーム」はABBAの6枚目のアルバム『ヴーレ・ヴ―』からの4番目のシングルで、原曲には子どもたちのコーラスが含まれており、ステージでは地元の学校の合唱団と共演することもありました。
キー・リリック:
「目指す先があるから、歩き続ける価値がある/暗闇を抜けて、もうひとつの一歩を」
「恋のウォータールー(Waterloo)」
ショーの最後はアンコールで締めくくられます。「マンマ・ミーア」や「ダンシング・クイーン」のリプライズに続き、キャスト全員による『Waterloo』が披露されます。
この曲は1974年のユーロビジョン・ソング・コンテストでABBAが優勝したナンバーで、彼らを国際的スターへと押し上げた代表曲です。通常、観客も一緒に立ち上がり、踊りながらこのフィナーレを楽しみます。