「お気に入りのバンドの14枚目のアルバムは、たいていひどいものだった」:Opeth(※)のミカエル・オーカーフェルトが語るABBA、レコード店の買収未遂、そして彼らの素晴らしい14枚目のアルバム
ABBA大好きなOpethのリーダー、ミカエル・オーカーフェルトが、ABBAのメンバーの一人に会ったとき、「完全にやられた」と語る。彼女は新作コンセプトアルバムで歌うことはなかったが、意外なビッグネームが参加している。
*画像提供:テルヒ・ユリマイネン。
ミカエル・オーカーフェルトがこれまでに尊敬するミュージシャンと交わした出会いの中でも、彼の記憶に強く残っているのは、ABBAの金髪のメンバーと酔っ払って踊った夜だ。
それは2011年、Opethが10枚目のアルバム『Heritage』を制作していた時のこと。場所はストックホルムのアトランティス・スタジオ。70年代にメトロノームと呼ばれていた頃、ABBAはこのスタジオで最初の5枚のアルバムを録音した。スタジオのオーナーは今でも同じ人物で、ABBAのボーカリストの一人であるアグネタ・フェルツコグとも連絡を取り合っていた。
スウェーデンではABBAファンであることが義務付けられており、そうでなければ刑務所行きになると言われるほどだ。Opethも例外ではなく、時折アグネタの話題を出していた。
「冗談で『アグネタは元気? いつゲストボーカルに来るんだ?』ってよく言ってたんだ」とオーカーフェルトは語る。
レコーディング最終日、スタジオのオーナーはOpethを自宅アパートのディナーに招待した。ドアを開けてシャンパンのトレイを差し出したのは、なんとアグネタだった。
「完全にやられたよ」とオーカーフェルト。「すぐ外に出て、タバコを5本連続で吸ったよ」。
緊張が解けた後、彼は部屋に戻り、平静を装った。アルコールが流れる中、アグネタはOpethのメンバーにABBAの昔話を楽しそうに語った。
その夜、オーナーとその妻が持つジュークボックスには50年代の古いシングルが詰まっていた。そして気がつくと、オーカーフェルトはABBAのアグネタと忘れ去られた曲に合わせて踊っていた。
「ダンシング・クイーンと踊ったんだ」と彼は嬉しそうに語る。「残念ながら『Dancing Queen』の曲じゃなかったけどね。スタジオのオーナーが彼女と親しくしていて、『Heritage』のレコードが彼女の家のステレオの横にいつも置いてあったって聞いた。しかもシュリンク包装されていなかったんだ」。彼は再び笑顔を見せる。「彼女は間違いなく聴いていたよ」。
残念ながら、OpethとABBAの夢のコラボレーションは実現しなかったが、2024年のOpethの地位を示すように、彼らは必要なときにビッグネームを引き寄せることができる。新作アルバム『The Last Will And Testament』には、ジェスロ・タルのイアン・アンダーソンや、さらに驚くべきことに、ヨーロッパのシンガー、ジョーイ・テンペストがゲスト出演している。
このアルバムは1920年代を舞台に、裕福な家長の遺言朗読と、相続を巡って欲深く腐敗した子供たちが繰り広げる反応を描いたコンセプト作だ。各曲は遺言のセクションを表しており、8曲中7曲は伝統的なタイトルの代わりに章記号(§)と番号(§1、§2など)が付けられている。これは、エドガー・アラン・ポーが脚本を書いた『サクセッション』のような作品だ。
「『サクセッション』が大好きなんだ。そしてポーも好きだから、これは完璧さ」とオーカーフェルトは語る。「物語がないと集中できないんだ。良い歌詞を書いたことはないし、歌詞は必要悪なんだよ。死や悪魔、幽霊については何度も書いたけどね」。
ロンドンの高級ロックンロールホテル「サンクタム」の地下シアターでインタビューは行なわれた。オーカーフェルトは脚を組んでソファに座り、ジェスロ・タルのTシャツを着ている。隣の椅子にはギタリストのフレドリック・オーケソンがもたれかかっていた。
オーカーフェルトは自己卑下の王様のような存在で、毛深いヒュー・グラントのようだ。「歌うことに慣れたのはいつか? うーん、まだないね」。
『The Last Will And Testament』はOpethのこれまでの音楽旅を凝縮した作品で、90年代後半から2000年代初頭のプログレッシブ・メタルの複雑なサウンドから、近年の穏やかな作風までが盛り込まれている。オーカーフェルトは15年ぶりにデスメタルの咆哮をレコーディングで披露しており、「復活したときに泣いた人もいたらしいよ」と少し困惑しながらも嬉しそうに語る。「それでも、歌詞がちゃんと聞き取れるって批判されるんだ」。
そして、これらのゲスト出演者がいる。イアン・アンダーソン(Ian Anderson)は数曲に参加し、亡き家長として重厚で演劇的なナレーションを披露するほか、戦略的にフルートも演奏している。オーカーフェルトが彼をOpethのレコードに招くのに14年かかった。
「2010年に『Heritage』のアルバムに参加してほしいとメールしたんだけど、返事がなかったんだ」とオーカーフェルトは語る。「それから数年後、ロサンゼルスのアメーバ・レコードでインタビューを撮影した時にこの話をしたんだ。『イアン・アンダーソンにメールを送ったけど、あの野郎は返事をよこさなかったんだ』ってね。冗談交じりだったけど、誰かがそれを見たんだろうね。それでこんなメールが届いたんだ。『イアンはあなたのアルバムでフルートを演奏したいそうです』ってさ。もちろん彼にナレーションを頼んだよ。でもその途中で彼がこう言ったんだ。『(礼儀正しく)フルートも必要かい?』ってね」。
レミーとザ・ノーランズ(Lemmy and The Nolans)の共演以来最も意外な組み合わせが実現したのが「§2」だ。この曲ではアンダーソンとジョーイ・テンペスト(Joey Tempest)が、掛け合いのようにセリフを交わしている。アンダーソンがOpethのレコードに登場するのは納得できる。しかしテンペストは?
「ジョーイ・テンペストはマジで最高だよ」とオーカーフェルトは皮肉もためらいもなく言う。「彼がうちに来たときに昼飯を食べながら話を切り出したんだ。『こういうパートがあるんだけど、やってみないか?』ってね。そしたら彼は『やろうぜ、マイクをセットしてくれ』って。ジョーイ・テンペストが俺のクソみたいな地下室でボーカルを録音すると言ってくれたんだよ」。
でもジョーイ・テンペストとOpeth?
「彼は俺のアイドルなんだ。ヨーロッパ(Europe)はずっとかっこいいと思っていたよ。あんなバンドを聴いちゃダメって言われていた頃ですらね」。
カラオケで『The Final Countdown』を歌うのか?
「カラオケは大嫌いだね」と彼は強く否定する。「シンガーだからって、完璧に歌えると思われてるからさ。フレドリックの方がずっと上手いよ」。
「酔っ払ってる時だけね」とフレドリックは言う。「ジューダス・プリーストの『Painkiller』ならできる。フルスクリームでね」。
*Opethのフレドリック・オーケソン(左)とミカエル・オーカーフェルト(画像提供:テルヒ・ユリマイネン)。
パンデミックの間、オーカーフェルトはストックホルムにあるレコード店「Mickes Skivor(マイクズ・ディスクス)」を買いかけたことがある。彼とフレドリックはその店の常連客だった。店主のマイクが店を売るとミカエルに話したとき、オーカーフェルトに店を引き継ぐ気はないかと提案した。看板を変える必要すらなかっただろう。
「実際、真剣に考えていたよ」と彼は語る。「中で働いて、仕事を覚えることにしたんだ。本当に買う価値があるか確かめたくてね」。
販売員としての自分はどうだった?
「最高だったよ」と彼は言い、フレドリックも頷きながら同意する。「社会福祉の仕事をしているような気分になることもあったね。レコードコレクターの多くは少し個性的で、人々は買いに来るというより、話しに来るんだ。まるで彼らのセラピストみたいだったよ」。
結局、彼は店を買わなかった。理由の一つは、店主が本当に売るつもりがなかったからだ。しかしそれ以上に、オーカーフェルトは古いレコードLPを神聖な遺物として敬う人間であり、誰にも必要とされなくなったレコードを実際に買い取ることがひどく気が滅入る経験だったからだ。
「たいていは、亡くなった誰かが残した膨大なレコードコレクションだったんだよ。それを子供たちは決して見向きもしない。それで突然、負担に変わるんだ」と彼は言う。「本当に悲しいことさ。何年も何年もかけてコレクションしたものなのに、子供たちは『こんなものクソくらえ』ってね」。
『The Last Will And Testament』のテーマである“毒のある相続”や“家族間の骨肉の争い”は、この話とうまく結びついている。しかし、オーカーフェルトの膨大なレコードコレクションに対して、彼の子供たちはそこまで冷淡な態度を取らないだろう。彼の16歳の娘、ミリヤム(Mirjam)は新作アルバムのオープニング曲「§1」に幽霊のようなボーカルで参加している。それは甘美な要素だが、少し奇妙でもある。子供は親の音楽に反発するものだが、自分の親のレコードに参加するのだから。
「彼女に頼んだら『…まぁ、いいよ』って感じで気だるく答えてくれた」とオーカーフェルトは語る。
「どうやら俺たちはTikTokで結構人気があるらしい。だから俺たちは“クール”なんだと」と言いながら、TikTokを中世の農民がハンセン病を眺めるような目で見ているような表情を浮かべる。
録音の日、ミリヤムは気が変わってしまった。「スタジオまで無理やり連れて行かないといけなかったよ。彼女は録音中ずっとSnapchatを見ていて、終わるとすぐに部屋に戻っていった。でも今では、反響が良かったと知って、ちょっと満足げだよ」。
オーカーフェルト自身も、ミリヤムと同じ16歳の時にOpethに加入した。1990年のことだ。当時はギタリストとして参加し、1992年にオリジナルボーカリストのデイヴィッド・イスベルグ(David Isberg)が脱退した際に、ボーカルを務めるようになった。彼はその時代から唯一残るメンバーであり、バンドを過激なメタルから、より複雑でインスピレーションに満ちた現在のスタイルへと導いてきた。その過程で、昔からのゴリゴリのファンの一部を失い、代わりに新しいファン層を獲得してきた。それでもなお、34年で14枚のアルバムをリリースしてきた。
「どうやってここまできたんだ?」。
「根気と愚かさ、そして辛い時に逃げ出さなかったことだよ」と彼は答える。「でも、時間がどこへ消えたのかは考えたりしない。ただ、他のバンドのディスコグラフィーを見ると憂鬱になるんだ。お気に入りのバンドのほとんどは、14枚目のアルバムがクソだったし、13枚目も12枚目もそうだった。良かったのは最初の3枚くらいだけだったりする。時々思うんだ。『俺たちも長年クソなアルバムを作り続けてきたのかな』ってね」。
でも本気でそうは思っていないんだろう?
「いや、14枚目のアルバムはマジで最高だと思ってるよ。でも、俺の好きなバンドだって、自分たちのクソな14枚目を同じように思っていたんだろうな」。
Opethが何者であるかを一言で表すなら、「時代に逆行しているバンド」だ。数年前、インドで開催されたギグでスポンサーのノキアの携帯電話をステージで宣伝するよう頼まれたとき、オーカーフェルトは激怒した。「すでにノキアの携帯を使っていたけど、家に帰って別のに変えたよ」と彼は今でも苛立ちを隠さない。
彼らはABBAのメンバーと酔っぱらった経験があるが、ホログラムのOpethショーが実現することはないだろう。AIについても、話を振るのは避けたほうがいい。「ちょっと怖いんだよ」とフレドリックは語る。まるでAIが屋根裏に突然現れた不気味な人形であるかのように。
当然ながら、すでにインターネットではOpeth風のAIソングが大量に作られている。オーカーフェルトはまだ見ていないが、興味はあるようだ。実際、自分でも試したことがあるらしい。
「チャットGPTが登場したばかりの頃、ディナーパーティーで酔っぱらって、彼女が『ミカエル・オーカーフェルト風の歌詞を書いて』って入力したんだ」と彼は話す。「結果はひどかったよ。『木々の中に幽霊がいる…』ってね」。
実際、それはOpethの歌詞みたいに聞こえるけどね?
「同じディナーパーティーにいた友人で、[スウェーデンのメタルバンド]グランド・マグナスのメンバーがいて、彼も同じことをやったんだ。彼の歌詞が返ってきたら『素晴らしい!』ってさ」。
技術の話はさておき、オーカーフェルトはOpethの34年のキャリアで他にも嫌いなものを学んできた。その筆頭が「ツアーの過酷さ」だ。50歳になった彼は、もはや旅好きとは言えない。
「ツアーは大嫌いだよ。家族や猫から離れるのが嫌なんだ」と彼は気楽に話しながら、若い“ちょっと年配”のオヤジ風の態度を見せる。「『趣味は旅行と世界を巡ることです』って言うやつら? お前らバカかよ。最悪の趣味だ」。
彼は昔のようにスーパーマーケットで働くことを密かに夢見ている。ずっと昔にやっていた仕事だ。「普通の仕事をロマンチックに考えちゃうんだよね。大変な仕事があるのはわかっているけど、普通のルーティンが欲しいんだ。異常なルーティンじゃなくてね。レコード店で働いていたのも、ツアーから抜け出す方法を探していたからさ。自分がやりたいときにだけツアーができるように。でもバンドの他のメンバーやスタッフ、周りの人たちへの責任があるからね」。
少し間を置いて、「でも、その選択肢は欲しいかな」と付け加える。
音楽業界が彼を手放し、小売業界が彼を得る日が来るのかは不明だが、それはありそうにない。Opethはとっくに、反抗的なアンダーグラウンドのバンドから、現代のロックシーンを代表する存在へと成長している。次の論理的なステップは“ベテランの重鎮”となることだろう。オーカーフェルトにはぴったりの役割に思える。今さら彼がベイクドビーンズを売るために音楽を辞めるなんて想像しにくいし、それにABBAのアグネタが黙っていないかもしれない。
『The Last Will & Testament』は現在発売中。Opethは2025年2月から3月にかけてヨーロッパツアーを行なう予定。チケットを手に入れよう。
※Opeth(オーペス):スウェーデン・ストックホルム出身のプログレッシブ・メタル/ロックバンドで、1990年に結成されました。バンドの音楽スタイルは、デスメタルやブラックメタルの要素を取り入れた初期の作品から、徐々にプログレッシブロックやフォーク、ジャズ、ブルースなどを融合した独自のサウンドへと進化しています。
Opethの特徴
- ジャンルの融合:ヘヴィで複雑なリフ、デスメタルのグロウル(咆哮)、そして美しいアコースティックパートやメロディアスなクリーンボーカルを巧みに組み合わせるのがOpethの特徴です。近年では、70年代のプログレッシブロックの影響が色濃く反映されています。
- コンセプトアルバム:Opethはコンセプトアルバムを多く制作しており、物語性や哲学的なテーマを重視しています。
- 複雑で長尺な楽曲:曲の多くは10分を超える大作であり、構成が複雑でドラマチックな展開が特徴です。
主なメンバー
- ミカエル・オーカーフェルト(Mikael Åkerfeldt) – ボーカル、ギター、バンドリーダー。作詞・作曲の大部分を担当し、バンドの象徴的存在。1990年から現在まで在籍。
- フレドリック・オーケソン(Fredrik Åkesson) – リードギター(2007年加入)。テクニカルなギタープレイでバンドの音楽的幅を広げています。
代表的なアルバム
- Blackwater Park(2001年) – Opethの代表作で、デスメタルとプログレッシブロックが融合した名盤。スティーヴン・ウィルソン(Porcupine Tree)がプロデュース。
- Ghost Reveries(2005年) – よりプログレッシブな要素が強まった作品。オカルトや死後の世界をテーマにしたダークなアルバム。
- Heritage(2011年) – デスメタル要素をほぼ排除し、70年代プログレ路線に完全にシフトした作品。賛否両論を呼んだが、バンドの新たな方向性を示した重要作。
- Pale Communion(2014年) – ヘリテージの流れを汲み、メロディアスでクラシカルなプログレを全面に押し出した作品。
- In Cauda Venenum(2019年) – スウェーデン語と英語の2バージョンが存在するアルバムで、Opethの芸術性と多様性を示す意欲作。
Opethの評価と影響
Opethは世界中のプログレッシブメタルシーンで高い評価を受けており、多くのバンドに影響を与えています。彼らの音楽はジャンルの枠を超え、メタルファンのみならず、プログレやロックファンにも広く支持されています。
Opethのライブは、その緻密なサウンドと圧倒的なパフォーマンスで知られ、観客を引き込む力があります。バンドの進化は止まることなく、今後の作品や活動にも注目が集まっています。