会場:コロネーション・ホール(モスギール)|公演日:5月15日(木)(※)
木曜夜、モスギールのコロネーション・ホールでは、世界の地政学が舞台の中心となりました。
ミュージック・シアター・ダニーデンが贈る、ベニー、ティム・ライス、ビヨルンの傑作『CHESS』には満席の観客が詰めかけ、ロシアとアメリカのチェスチャンピオンによる宿命の対決が目撃されました。
*ミュージカル・シアター・ダニーデンによる『チェス:ザ・ミュージカル』の主演キャストたち。写真提供:主催者。
演出のグレッグ・マクラウドは、視覚的に非常に美しいプロダクションを作り上げ、プロットを一貫性のある形で巧みに展開させています。それを豪華な照明と衣装がしっかりと支えています。
マクラウドの演出では、優れた映像投影技術が駆使され、ステージの形状が自在に変化して見えるような演出が自然に取り入れられています。スライディングスクリーンによる場面転換はまるで魔法のよう。
また、白と黒を基調に、赤をアクセントとしたカラーパレットも効果的に舞台に活かされていました。
振付のオリヴィア・ラーキンスは、多彩なスタイルを取り入れており、特に冒頭の2つの合唱ナンバーは非常にキレがあり洗練された仕上がりです。
ただし、有名な第2幕冒頭の「ワン・ナイト・イン・バンコク」については、もう少しインパクトが欲しかったところです。
音楽監督のブリジット・テルファー=ミルンは、12人編成のオーケストラを力強く指揮しました。音楽の難しさからか、一部で不安定な瞬間もありましたが、それもこの作品の複雑さゆえでしょう。
ステージ上で演技に弱点は一切見られませんでしたが、なかでも際立ったパフォーマンスがいくつかありました。
ロシア人アナトリー・セルギエフスキーを演じたマックス・ビールは、暗く響く声の重みを活かしてキャラクターを形成し、
アメリカ人のフレデリック・トランパーを演じたベン・トーマスの軽快で傲慢な演技との対比が絶妙なコントラストを生み出していました。
物語の軸となるフローレンス・ヴァッシーを演じたアンナ・ラングフォードは、役柄に説得力を持たせていましたが、オーケストラの音量がやや勝り、彼女の低音域が埋もれる場面もありました。
アービター役のジョシュア・ラーキンスは、ショーの開幕を歌で切り開くという難役を見事にこなし、
アレクサンダー・モロコフ役のジャック・アーチボルドは、印象的な“準ロシア訛り”のアクセントで見事な演技を見せました。
合唱隊(コーラス)は明瞭で力強い声で歌い切り、複雑な演技・動作をこなしながらも正確な音程を維持していました。ただし、発音の明瞭さ(ディクション)については改善の余地があります。
そして最後に、フローレンス・ヴァッシーが問いかける言葉——
それは1984年の初演当時と同じく、今もなお鋭い問いとして響きます。
『CHESS』は土曜日まで上演されます。
お見逃しなく。
※ロネーション・ホール(Coronation Hall, Mosgiel)は、ニュージーランド南島のダニーデン市モスギール地区にある歴史的な多目的ホールで、地元コミュニティの文化・芸術・社交活動の中心として長年にわたり親しまれています。
https://www.odt.co.nz/entertainment/music/%E2%80%98chess%E2%80%99-offers-standout-performances