ニューヨーク発 —
もしマンハッタンのミッドタウンでガラスの破片を踏んだなら、それは『CHESS(チェス)』の出演者たちがImperial Theatre(インペリアル・シアター)の近くで高音を張り上げすぎて割ってしまったのかもしれない。
Lea Michele(リア・ミシェル)、Aaron Tveit(アーロン・トヴェイト)、Nicholas Christopher(ニコラス・クリストファー)が歌う、ベルティング全開でシンセサウンド満載のスコアは、ABBAのメンバーによって書かれたもので、いまや究極のピークに到達したかのようだ。
1984年、2枚組アルバムとして発売され、複数のヒットシングルを生んで以来、作詞家Tim Rice(ティム・ライス)が構想したこの異色作は、長らく「脚本を探し続けるコンセプトアルバム」のような存在だった。
パワーバラードの洪水、セックスツーリズムを題材にした小品、さらにWhitney Houston(ホイットニー・ヒューストン)と母親がカバーしたデュエット曲まで――
それらを「世界選手権CHESS」の物語にどう組み込むのか?
1986年のウエストエンド初演はアルバム人気に乗って3年続いたが、1988年のブロードウェイ版(脚本:Richard Nelson)は大失敗に終わった。
今回、演出家Michael Mayer(マイケル・メイヤー)による新プロダクションは、奇妙さをアリーナ級の規模にまで拡大した印象だ。
スターの歌唱力を堪能し、物語の辻褄は気にしない――そんな観客向けの豪華コンサートのようでもある。
音楽はBenny Andersson(ベニー・アンダーソン)とBjörn Ulvaeus(ビヨルン・ウルヴァース)。
デヴィッド・ロックウェルのセットは、ナイトクラブと選挙速報会場を合わせたような独特の空間だ。
今や『CHESS』は時代物となり、新脚本家Danny Strong(ダニー・ストロング)は、「冷戦時代のCHESS選手権をミュージカルにするなんて明らかに奇妙だ」と自虐的に語るナレーションを追加。
審判兼司会役のBryce Pinkham(ブライス・ピンカム)が観客に語りかけ、複雑な展開をキャンプ調ユーモアで包み込む。
CIA役のSean Allan Krill(ショーン・アラン・クリル)と、KGB役のBradley Dean(ブラッドリー・ディーン)も軽妙な演技で魅せる。
第2幕では物語がますます脱線し、上演時間2時間45分がやや長く感じられる場面もある。
しかし観客の目当ては明らかに、1980年代風ロックバラードの数々だ。
爆音、ロングトーン、圧倒的歌唱力。
耳栓を持参せよ。ティッシュも忘れるな。心して身を委ねよ。
ミシェルは感情表現の巧みさで楽曲に深みを与える。
トヴェイトとクリストファーも、それぞれの天才棋士の激しさを見事に体現。
特にトヴェイトは「ワン・ナイト・イン・バンコク」で下着姿から宙でズボンを履くパフォーマンスまで披露し、全力で楽しんでいる。
物語に地政学的な意味を持たせようとする試みは、メロドラマ的な恋愛劇とやや噛み合わない。
だが結果的に、
「不格好だが熱狂的で、混沌としていながらも最高に盛り上がる作品」
となっている。
『CHESS』
Imperial Theatre(インペリアル・シアター)
上演時間:2時間45分(休憩あり)
公式サイト:chessbroadway.com
https://www.washingtonpost.com/entertainment/theater/2025/11/16/chess-broadway-review/



