ABBAのジュークボックス・ミュージカル『マンマ・ミーア!』が、別れられない執着心の強い元恋人のようにミルヴィッシュへ帰ってきた
*プリンセス・オブ・ウェールズ劇場で上演された『マンマ・ミーア!』で、ソフィ・シェリダンを演じたジュリエット・M・オヘダと出演者たち。
撮影:ジョーン・マーカス
ブロードウェイでの再上演に続き、大ヒットしたジュークボックス・ミュージカルが、その魅力も欠点もそのままにトロントへ帰ってきた。
『マンマ・ミーア!』
4つ星中2.5つ星
作詞・作曲:ベニー・アンダーソン、ビヨルン・ウルヴァース
一部楽曲:スティッグ・アンダーソンとの共作
脚本:キャサリン・ジョンソン
演出:フィリダ・ロイド
8月30日まで、プリンセス・オブ・ウェールズ劇場(キング・ストリート・ウエスト300番地)(※)で上演された。
疲れを知らないジュークボックス・ミュージカル『マンマ・ミーア!』が、3年足らずの間に早くも2度目となるトロント公演に戻ってきた。アンドリュー・ロイド=ウェバーの『キャッツ』よりも多くの命を持っているようにさえ見えたこの作品は、距離感を守れない、執着心の強い元恋人に少し似ていた。
皆さんも、そういう人をご存じだろう。ようやく相手との思い出をすべて消し去ったと思った矢先、何の前触れもなく玄関先に現れるような人だ。
何も変わっていなかった。
相変わらず、前世紀から抜け出してきたような、ひどくけばけばしい衣装を身にまとっていた。相変わらず華やかさばかりで、中身はそれほどなかった。そして、何かを主張したくなるたびに突然ABBAの曲を歌い始めるという奇妙な癖も、そのままだった。
しかし、その欠点や風変わりなところ、きしむ関節や痛む骨をすべて抱えながらも、驚くほど人の心を引きつけ、抗い難い魅力を今なお備えていた。
それが、フィリダ・ロイド演出の『マンマ・ミーア!』だった。そして、それは主人公ドナ・シェリダン(ジェシカ・クラウチ)が直面した難題でもあった。
ギリシャの島で宿を経営するシングルマザーのドナは、娘ソフィの結婚式前夜、かつての恋人の一人でも二人でもなく、三人全員と顔を合わせることになった。これは、自分の本当の父親を見つけたいというソフィの願いによって引き起こされた、まさに目覚めたまま見る悪夢だった。
「25周年記念ツアー」と銘打たれた今回の巡回公演は、2024年にトロントのCAAエド・ミルヴィッシュ劇場で上演されたものと、ほぼ同じだった。
その間には短期間ながらブロードウェイ公演も行なわれた。普通なら、年季が入り、やや勢いを失いつつあったこの舞台にも、そこで新たな活力が注ぎ込まれたと思うところだった。しかし今回も、良い点と悪い点が入り交じった作品であることに変わりはなかった。
明るい材料を挙げるなら、2024年の公演とは異なり、アンドリュー・ブルースとボビー・エイトケンによる音響設計が、ありがたいことに耳をつんざくような音量を抑えていた。
実際、音響調整が難しいことで悪名高いプリンセス・オブ・ウェールズ劇場で最近観た巡回公演のなかでも、今回の音響バランスは最高水準の一つだった。
ドナの親友ターニャとロージーをそれぞれ演じた続投キャストのジェイリン・スティールとカーリー・サコロヴは、今回の公演で最も輝いていた存在だった。
このダイナミックな二人組による、あえて大げさでけばけばしい演技は、このミュージカルが持つキッチュな雰囲気と美学を完璧に捉えていた。
第1幕で披露された活気あふれる「チキチータ」のように、二人がそろって舞台に立つと、まるでローレル&ハーディが、ボトックスを愛する離婚女性と、野暮ったさが何とも愛らしい親友として生まれ変わったかのようだった。
衣装と舞台装置は、マーク・トンプソンが担当した。
*左から、プリンセス・オブ・ウェールズ劇場で上演された『マンマ・ミーア!』で、ターニャを演じたジェイリン・スティール、ロージーを演じたカーリー・サコロヴ、ドナ・シェリダンを演じたジェシカ・クラウチ。
撮影:ジョーン・マーカス
しかし、この二人の助演があまりに魅力的だったため、結果としてクラウチの存在をかすませてしまっていた。
クラウチの低音域は、ABBAのアンニ=フリード・リングスタッドを思わせるほど豊かで美しかった。一方、高音域には、それほどの柔軟性や音色の多彩さが感じられなかった。
前年のブロードウェイ公演後にこのプロダクションへ加わったクラウチは、私がそれまで観てきたほかの解釈と比べ、ドナをかなり若々しく演じていた。
人生に疲れ、すれた女性というより、単に疲れ切った女性に見えたため、「マネー、マネー、マネー」のような曲は、いくらか効果を失っていた。
しかしクラウチは、この役に本物の傷つきやすさも与えていた。
物悲しい「スリッピング・スルー」を、ささやき声よりわずかに大きい程度の声で歌ったとき、彼女のドナは、大人になっていく娘を失う寂しさだけでなく、自分自身の青春が過ぎ去ったことも嘆いているように感じられた。
ジュリエット・M・オヘダもまた、ソフィを若々しく、少し無邪気に演じていた。彼女が本当に20歳なのだと信じるのは難しくなかった。他のソフィ役については、必ずしも同じことが言えるわけではなかった。
ソフィの父親かもしれない三人を演じたロブ・マーネル、リーランド・バーネット、ヴィクター・ウォレスは、いずれも優れた歌声を持っていた。ただし、演技はいくらか硬く見えた。
ロイドの演出には、細かくあら探しをしようと思えば、いくらでも指摘できる点があった。
振付家アンソニー・ヴァン・ラーストによる、膝を高く上げ、手足を大きく伸ばすダンスには、以前のような活気が失われていた。
トンプソンによる縮小版の舞台装置は、舞台係が手作業で移動させなければならない2枚の曲面壁で構成され、安っぽく、頼りなく見えた。ハワード・ハリソンによる照明デザインの一部も、規模を縮小されたように感じられた。
*プリンセス・オブ・ウェールズ劇場で上演された『マンマ・ミーア!』の出演者たち。
撮影:ジョーン・マーカス
それでも『マンマ・ミーア!』は、舞台ならではの魔法を生み出すことに成功していた。
「ダンシング・クイーン」や「ヴーレ・ヴー」といった曲で、出演者たちが本格的な歌とダンスを繰り広げると、ベニー・アンダーソンとビヨルン・ウルヴァースの楽曲は、抗うことのできない一種の高揚感を生み出した。一部の楽曲には、スティッグ・アンダーソンも参加していた。
この強烈な音楽の調合こそが、私がこの作品を観るたび、結局は心を奪われてしまう理由なのだと思った。
トロント初演から四半世紀以上がたち、これまでにおよそ6回のプロダクションが上演されてきた。まるでトロントという街そのものが、『マンマ・ミーア!』と、ついたり離れたりを繰り返す曖昧な関係から抜け出せなくなっているかのようだった。
この作品が切実なまでに刷新を必要としていることは分かっていた。それでも、その風変わりな魅力を無視することはできなかった。
※プリンセス・オブ・ウェールズ劇場とは?
プリンセス・オブ・ウェールズ劇場(Princess of Wales Theatre)は、カナダ・トロントを代表する大型劇場です。市中心部のエンターテインメント地区に位置し、主にブロードウェイやウエストエンドの大規模ミュージカルを上演しています。
約2,000席の大型劇場
客席数は約2,000席。ミルヴィッシュ・プロダクションズが所有・運営しています。
客席は次の3層に分かれています。
- オーケストラ席
- ドレスサークル席
- バルコニー席
19世紀英国の伝統的なプロセニアム劇場を基本としながら、現代的な舞台設備とバリアフリー設計を取り入れています。ミルヴィッシュ・プロダクションズ公式サイト
ダイアナ元皇太子妃にちなんだ名称
劇場名は、英国のダイアナ元皇太子妃の了承を得て名付けられました。
同時に、東へ1ブロックの場所にある姉妹劇場「ロイヤル・アレクサンドラ劇場」とのつながりや、かつてトロントに存在した「プリンセス劇場」の記憶も込められています。
1993年に開館
エド・ミルヴィッシュとデヴィッド・ミルヴィッシュによって建設され、1993年5月26日に『ミス・サイゴン』のカナダ公演で開館しました。
大規模なミュージカルを長期間上演するために造られた劇場で、これまでに次のような作品が上演されています。
- 『マンマ・ミーア!』
- 『ライオン・キング』
- 『レ・ミゼラブル』
- 『オペラ座の怪人』
- 『美女と野獣』
- 『シカゴ』
- 『キャバレー』
- 『サウンド・オブ・ミュージック』
- 『戦火の馬』
- 『ロード・オブ・ザ・リング』
フランク・ステラによる壁画
劇場内部の大きな特徴が、米国の芸術家フランク・ステラによる色彩豊かな壁画です。
客席天井、舞台を囲むプロセニアム・アーチ、ロビー、ラウンジ、バルコニーなど、広い範囲に抽象的な装飾が施されています。伝統的な劇場建築と現代美術を融合させた空間になっています。
『マンマ・ミーア!』との関係
今回の記事で紹介された『マンマ・ミーア!』のトロント公演も、この劇場で上演されました。
約2,000席を持ち、大型の音響・照明設備を備えているため、「ダンシング・クイーン」や「ヴーレ・ヴー」のような、出演者全員による華やかな歌とダンスを楽しむのに適した劇場です。
所在地は、300 King Street West, Toronto, Ontario, Canada。トロント国際映画祭の主要会場が集まるキング・ストリート沿いにあります。



