かつて マリーナ・アンド・ザ・ダイアモンズ の名で活動していた マリーナ の、キャンディのように甘く、しかし自己批判的なポップ・ミュージックが世界中のTumblr世代の若者たちの心を掴んでいた絶頂期から、すでに10年以上が経過している。
*グラスゴーのO2アカデミーでパフォーマンスを行うマリーナ
(写真:フランク・マーフィー)
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しかし、グラスゴーのO2アカデミーへ向かう観客たちを見ていると、その年月をまったく感じさせない。
彼女が2012年に発表したコンセプト・アルバム『エレクトラ・ハート』のジャケットに描かれていた、頬のハートマークを真似した若者たちがいる。
レトロな『哀しみの谷(ヴァレー・オブ・ザ・ドールズ)』風のヘアスタイルにはピンクのリボンが飾られている。
その美学は、今なお新しい世代のティーンエイジャーたちの間で強いカルト的人気を誇っている。彼女たちはポップアイドルであるマリーナになりきるように着飾る。
変わったことがあるとすれば、かつてTumblrだった場所をTikTokとInstagramが置き換えたことくらいだ。
若い観客たちがわざわざ足を運んで彼女のライブを見に来るのは不思議ではない。
マリーナの優れた才能や数々のポップ・ヒットはもちろんのこと、現代社会に幻滅したZ世代は、厳しい現実から逃避する手段として過去に目を向ける傾向を強めているからだ。
私たちミレニアル世代にとって2010年代初頭はそれほど昔のことには感じられない。
しかし、今のティーンエイジャーたちにとってはまったく別の世界である。
彼らは自分たちが経験していない時代や訪れたことのない場所について、「2012年のウィリアムズバーグの雰囲気」といったタイトルを付けたノスタルジックなファン動画を作っている。
一方で、同世代に人気を集めるポップスターたち――
- Billie Eilish
- Kim Petras
- Slayyyter
――は、いずれもマリーナから影響を受けたと語っている。
そのため、彼女の作品群は新しい世代にも受け継がれているのである。
観客席を見渡せば、近年チャートで大きな成功を収めていないにもかかわらず、マリーナがいかに熱狂的なファン層を持ち、LGBTQ+コミュニティのアイコンとして支持され続けているかがよく分かる。
ABBAの「レイ・オール・ユア・ラヴ・オン・ミー」の大合唱が会場を包んだ後、マリーナは身体にぴったりとフィットした70年代風の紫色のベルベット製ジャンプスーツ姿でステージに登場した。
すると観客は割れんばかりの拍手と歓声で迎えた。
*グラスゴーのO2アカデミーでパフォーマンスを披露するマリーナ。
(写真:フランク・マーフィー)
レトロなビデオゲームやアニメーションを思わせる映像を背景に、彼女は最新アルバムのタイトル曲「プリンセス・オブ・パワー」でショーをスタートさせ、自身の世界へ観客を招き入れた。
セットリストにはこれまでのさまざまな時代の楽曲が織り込まれている。
しかしその根底には、長年彼女の歌詞を特徴づけてきたテーマ――
- デジタル文化
- 自己批判
- 強いフェミニズム
――が一貫して流れている。
観客が特に熱狂したのは、『エレクトラ・ハート』に収録されたアップテンポなシンガロング曲「バブルガム・ビッチ」だった。
しかしその勢いは新曲「バタフライ」でも衰えることはない。
セットリストは6つの章に分かれているようだが、それぞれを区切る明確な違いはよく分からない。
どうやらゲーム風のスクリーン映像にテーマ性を与えるための演出らしい。
マリーナはダンサータイプのパフォーマーではない。
それでも彼女はステージ上を優雅に歩き回り、送風機に揺れるシフォンのスカーフをなびかせながら観客を魅了する。
視覚的な見どころは十分にある。
もっとも、このショーの本質はやはり歌声だ。
その声は今も変わらず力強く、そして唯一無二である。
*グラスゴーのO2アカデミーでパフォーマンスを披露するマリーナ。
(写真:フランク・マーフィー)
なぜショーの始まりと終わりにABBAの楽曲が使われているのかは明らかだ。
そしてマリーナがセットリストの中で、ABBAの「ギミー!ギミー!ギミー!(真夜中の男)」をサンプリングしたことで有名な Madonna の「ハング・アップ」をカバーしている理由も理解できる。
近年のマリーナの楽曲は、喜びに満ちたディスコ・ポップ色が強い。
そこには彼女が敬意を示しているABBAの楽曲との明確なつながりが感じられる。
これまでマリーナは1950年代や1960年代の美学を作品に取り入れてきた。
しかし今回の作品群は、彼女のサウンドが特定の時代から最も強く影響を受けている例と言えるだろう。
そのサウンドは実に楽しく、そして非常に踊りやすい。
*グラスゴーのO2アカデミーでパフォーマンスを披露するマリーナ。
(写真:フランク・マーフィー)
最新作収録曲「アイ・ラヴ・ユー」でショーを締めくくる際、彼女はこう歌った。
「みんなはY2Kへ向かっているけれど、私たちは70年代へ向かうの」。
会場にいる若者たちは2012年へ戻りたがっている。
1985年生まれのマリーナは、自分が生まれる前の1970年代へ戻りたがっている。
つまり、この夜のテーマは誰にとっても「ノスタルジア」と「現実逃避」だったのだ。
※マリーナ・アンド・ザ・ダイアモンズ(Marina and the Diamonds) は、ウェールズ出身のシンガーソングライターである Marina Diamandis が2009年から2020年まで使用していたアーティスト名です。
「ダイアモンズ(Diamonds)」はバックバンドの名前ではなく、ファンの愛称を指しています。そのため、「マリーナとバックバンド」という意味ではありません。
プロフィール
- 本名:マリーナ・ラブリニ・ディアマンディス
- 生年月日:1985年10月10日
- 出身:Wales
- 父はギリシャ系、母はウェールズ人
- シンガーソングライター、作曲家、プロデューサー
主なアルバム
『ザ・ファミリー・ジュエルズ』(2010)
デビューアルバム。
代表曲
- 「ハリウッド」
- 「アイ・アム・ノット・ア・ロボット」
『エレクトラ・ハート』(2012)
彼女の代表作とされるコンセプト・アルバム。
「エレクトラ・ハート」という架空のキャラクターを通じて、
- 名声
- 恋愛
- 女性像
- アメリカンドリーム
などを風刺的に描いた作品です。
代表曲
- 「プリマドンナ」
- 「バブルガム・ビッチ」
- 「ハウ・トゥ・ビー・ア・ハートブレイカー」
このアルバムのジャケットに描かれた頬のハートマークは、現在でもファンの象徴になっています。
『フルート』(2015)
より内省的で成熟した作品。
代表曲
- 「アイム・ア・ルイン」
- 「ブルー」
『ラヴ+フィアー』(2019)
心理学者エリザベス・キューブラー=ロスの理論に着想を得たアルバム。
『エンシェント・ドリームズ・イン・ア・モダン・ランド』(2021)
フェミニズムや環境問題をテーマにした作品。
『プリンセス・オブ・パワー』(2025)
最近の作品で、ディスコや1970年代ポップの影響が色濃く反映されています。
なぜ人気なのか
マリーナは単なるポップスターではなく、
- 鋭い社会批評
- フェミニズム
- SNS時代の自己表現
- メンタルヘルス
- 名声への違和感
などを歌詞に取り入れることで知られています。
そのため、特にZ世代やLGBTQ+コミュニティから強い支持を受けています。
ABBAとの関係
最近のマリーナはABBAからの影響を公言しており、ライブでは
- 「レイ・オール・ユア・ラヴ・オン・ミー」
- 「ギミー!ギミー!ギミー!」
などのABBA楽曲へのオマージュを取り入れています。
2026年のグラスゴー公演では、開演前に「レイ・オール・ユア・ラヴ・オン・ミー」の大合唱が行なわれ、さらに Madonna の「ハング・アップ」(「ギミー!ギミー!ギミー!」をサンプリングした曲)のカバーも披露されました。
ABBAファンにとっても、近年注目すべきアーティストの一人と言えるでしょう。




