「私たちは月でもライブができるくらいビッグ」:トリビュート・アーティストが語る名声、報酬、そして成功の秘訣
デイヴ・グロールはBjorn Againの「最大のファン」。ケリー・オブライエンはドリー・パートンに似せるためにローンを組んで豊胸。
4組のトリビュート・アクトが語る、“世界最高の仕事”。
*オーストラリアのトリビュートバンドの合成写真。左から順に:
ABBAトリビュートバンド「ビヨルン・アゲイン」、ドリー・パートンのトリビュート・アクト「ケリー・オブライエン」、フリートウッド・マックのトリビュートバンド「ドリームズ」、そしてバリー・ギブに扮する「オーストラリアン・ビー・ジーズ」のマイケル・クリフト。
合成写真提供:ケリー・オブライエン/ブリタニー・ペイジ/マリオ・バスナー。
■ ピンク・フロイド、クイーン、AC/DC、そしてもちろんエルヴィス──
これらのアーティストの「そっくりさん」たちは、週末になるとオーストラリア各地の会場を満員にしながら公演を行っている。
もちろん“本物”ではないかもしれないが、そのクオリティは十分に“本物らしい”。
かつてから存在するトリビュート・アーティスト(有名アーティストの模倣で生活するパフォーマーたち)は、近年特に人気が急上昇している。オーストラリアのライブ音楽業界全体が厳しい状況にある中で、観客たちはこれまで以上に“懐かしさ”を求めており、それが追い風となっている。
RSLクラブ(退役軍人クラブ)や地方都市が主な活動の場だったが、今では最前線のトリビュート・アクトはチケット1枚100ドル以上で販売できるほどだ。
では、今オーストラリアで最も人気のあるトリビュート・アーティストたちとは?そして彼らを突き動かすものは何なのか?4組に会い、その舞台裏を探った。
*ビヨルン・アゲイン、2024年にメルボルンのシドニー・マイヤー・ミュージック・ボウルで公演。写真:ダラ・マニス。
■ Bjorn Again:「ABBAなんて好きじゃなかったけど…」
世界最大のABBAトリビュート・アクトとして知られるBjorn Again(ビヨルン・アゲイン)は、多くのアーティストが夢見るような舞台に立ってきた。
グラストンベリー・フェスティバルには3度出演し、ウェンブリー・スタジアムやシドニー・オペラハウスといった名門会場でも演奏。年間300〜400回の公演をこなし、これまで約120か国をツアーしてきた。
だが、創設者のジョン・タイレルにとって真の成功の証は「どんな有名人が観に来るか」だという。
*ビヨルン・アゲイン、昨年シドニーで公演。写真:ダラ・マニス。
「デイヴ・グロールが僕たちの最大のファンなんだよ」。
「ローワン・アトキンソン(ミスター・ビーン)は自分のパーティーに僕たちを呼んだし、J.K.ローリングもライブに来た。ラッセル・クロウは自分の結婚式に僕たちを呼んだし、ビル・ゲイツにはマイクロソフトのイベントで“マネー、マネー、マネー”を披露したんだ。まだまだあるけど、言いきれないよ」。
需要が多すぎるため、Bjorn Againには複数の“ラインナップ”が存在し、それぞれがABBAメンバーを演じる。また、ロンドンとメルボルンに拠点を持ち、公演のチケットは即完売するという。
タイレルはこう言い切る。
「僕らなら月でもライブができるよ」。
とはいえ、そもそもの始まりはABBAへの愛ではなかった。1988年、メルボルンでバンド活動をしていたタイレルとロッド・スティーブンは、「バンドが売れなかった」ことから、面白くて目立つ新しい試みとしてABBAカバーを始めることにした。
「正直、ABBAは好きじゃなかったんだ」とタイレルは振り返る。
「でもロッドは『俺も嫌いだけど、それが問題じゃない』って言ったんだよ」。
35年以上経った今も続いていることは、当時の2人には想像もできなかった。タイレルは10年前にステージから退き、現在は裏方に回っているが、この仕事が好きで仕方がない。
「誰が出演依頼の電話をかけてくるかなんて、毎回わからないんだ」。
中でも最も衝撃的だったのは──ウラジーミル・プーチン。
2009年、モスクワでのプライベート公演に彼がBjorn Againを呼んだという。
当時は英国オフィス経由でのブッキングだったため、タイレル本人がその事実を知ったのは、ジャーナリストから80件もの着信を受けた朝だった。
「当時はまだプーチンがどこかに侵攻してたわけじゃなかったと思うんだ」。
「でも今となっては、その出来事を誇ることはできない。“ウクライナの件”以降、公式サイトからその話は削除したよ」。
Bjorn Againは世界的な成功と高収入を誇るが、タイレルは「金儲けのためではない」と語る。
「僕たちは楽しくて始めただけ。でも結果的に信じられないほど成功したんだ」。
*Bjorn Againのみ翻訳。