ある演技は「完成度が高い」と感じられる。またある演技は、まるで何かに“取り憑かれている”かのように見える。ブロードウェイ版『CHESS』再演でのブライス・ピンカムによるトニー賞ノミネート演技――アービター役は、その両方を同時に実現している。
リングマスターであり、歴史の語り部であり、挑発者でもあるピンカムのアービターは、現在インペリアル劇場で観客を熱狂させている洗練された新演出版『CHESS』へ観客を案内するだけではない。まるで舞台催眠術師のように、登場人物たちを瞬時に動かしながら、この作品そのものをリアルタイムで“出現”させているかのようなのだ。その演技は、いたずらっぽいユーモアと、徐々に高まっていく地政学的緊張感を絶妙に両立させている。
ピンカムにとって、この公演は『CHESS』との約10年にわたる関係の集大成でもある。その始まりは2018年のケネディ・センター公演であり、その後のワークショップやコンサート版を経て、ついにブロードウェイへ辿り着いた。
*ブライス・ピンカム。
撮影:スーザン・シャクター。
『CHESS』について、ピンカムはこう語る。
「この作品の心臓部は音楽だと思っています。そして、この作品を愛している人たちは、音楽を愛しているんです。最初にケネディ・センターで出演した時、実は僕はこの作品についてほとんど知りませんでした」。
単なる仕事として始まった関係は、やがてはるかに個人的なものへ変わっていった。
今回のバージョンではアービター像が大幅に再構築されたため、ピンカムは脚本家ダニー・ストロングと共に、この役作りに深く関わることとなった。
「ダニーと一緒にこの役を作り上げた感覚が本当にありました。役の一部は自分のものだと感じていたし、この役や作品の成功も、自分と結びついているように思えたんです。そして、その旅を続けたいと思いました。だから、“ブロードウェイ版でもアービターを再演しないか”というオファーに対しては、即答で“イエス”でした」。
その“所有感”は舞台上でもはっきりと感じられる。
実際、ピンカムのアービターはどこにでも存在しているように見える。彼は物語の内側と外側の両方に存在し、出来事を操りながら、同時に観客とも直接つながっている存在だ。
そのコンセプトは、演出家ローレン・ラタロからのある一言から始まったという。
「リハーサル初日に彼女がこう言ったんです。“このセット全体はあなたの自由に使えると思う”って。そして、“あなたはこのすべてを操る操り人形師なのよ”とも言われました」。
ピンカムはその発想を大きく膨らませた。
「『キャバレー』のMCに近い感覚にしたかったんです。作品の一部でありながら、同時に“なぜこの物語を語るのか”という理由を持っている人物にしたかった」。
その考え方は、やがてこのプロダクションを最も魅力的にしている演劇的装置のひとつへと発展していった。
「彼を、ある種の催眠術師のように考えています。あの“指パッチン”もそこから来ました。彼がこの物語を語る必要があり、そのために出演者たちを配置している――そんなイメージなんです」。
*ブライス・ピンカム(アービター役)と『CHESS』キャスト陣。
撮影:マシュー・マーフィー。
さらに、アービターの持つあの魅力的ないたずらっぽさについては、「実は自分自身にかなり近い」とピンカムは笑う。
「小学1年生の時、両親が先生との面談に呼ばれたんです。その時先生が、“あなたのお子さんには、私の教室以外で発散できる場所を見つけてあげてください”と言ったんですよ。彼女が使った言葉は――“向こう見ずな創造性”でした」。
当然ながら、その“発散場所”が演劇になった。
「リハーサル中、僕はいつも友達を笑わせようとしているんです」。
その精神はアービターにも反映されている。彼は観客に対し、『CHESS』の壮大さと、時折顔を出す“突飛さ”の両方を受け入れる許可を与えているのだ。
「彼がちょっと生意気な感じになるのが、僕たちは好きなんです」。
作品開発初期に見つかった発見について、ピンカムはそう語る。
「彼が少し物語の外側にいる時、観客も“この物語ってちょっと馬鹿げてるよね”と笑えるんです」。
しかし、そのユーモアの裏には、驚くほど精密な技術が存在する。
『チェス』のスコアは、ミュージカル界でも特に難易度が高いことで知られている。複雑なオーケストレーションと、感情のこもった楽曲群は、長年にわたり多くのミュージカルファンに愛されてきた。
「難しさは、“この作品を愛している人たちの期待に応えること”だと思います」。
そう語るピンカムは、この複雑な楽曲群へ「勤勉さと、少しの優しさ」を持って向き合っているという。
その“優しさ”には、ブロードウェイの過酷なスケジュールの中でも、自分自身の人間らしさを認めることが含まれている。
「今シーズンは、アレルギーが本当に酷い夜もありました」。
彼はある公演を振り返る。元々はアドリブだった一行が脚本へ取り入れられた場面だ。
本来の台詞は、
「そう、私は歌う。そして完璧にやってみせる」
だったが、その日は、
「そう、私は歌う。そしてベストを尽くす」
へ変えたという。
「毎晩、僕たちは“その日にできるベスト”をやっているんです」。
今回の再演がこれほどスリリングな理由の一つは、クリエイティブチームが、過去のブロードウェイ版が解決できなかった問題を明確に理解していたことにある。
「彼らは、この作品を“ラブストーリー”にしたんです」。
ピンカムはそう分析する。
「そして、“比喩”を無理に舞台化しようとはしなかった」。
さらに、整理されたストーリーテリング、舞台上に見えるミュージシャンたち、そして“音楽を主役に据える”という決断も成功要因だったという。
「彼らは作品をシンプルにし、明確化し、音楽が中心に立てるようにしたんです」。
そして、キャスト陣についても熱く語る。
「これだけ素晴らしい歌手たちがあの曲を歌っているんです。嫌いになれるわけがないでしょう? 名曲ばかりなんですよ。」
しかし2026年の『CHESS』の力は、単なるノスタルジーではない。
ピンカムは、この作品の冷戦的緊張感が、現在の世界情勢と強く共鳴していることを深く意識している。
「今の政治環境は緊張しています。世界の地政学的状況は、冷戦時代を思わせる緊張感を帯びています」。
その文脈は、外交を戦争より優先すべきだと訴える、アービター最後のモノローグにも強く反映されている。
その場面は、公演を重ねるごとに感情的重みを増しているという。
「9か月間あのスピーチを演じ続ける中で、その“意味”は変化してきました」。
「もちろん、そんな意味で現実味を帯びてほしかったわけではありません。でも、その緊張感は確かに肌で感じられるものになっています」。
*ブライス・ピンカム(アービター役)と『CHESS』キャスト陣。
撮影:マシュー・マーフィー。
ピンカムにとって、特に強く心を動かされる場面がある。それは、俳優としてだけでなく、“父親”としてでもある。
「ネタバレになりますが、ウォルター・ド・コーシーは、自分がなぜ冷戦を気にするのかという理由を語ります」。
彼は、ウォルターが幼い娘が“核の冬”を生き延びようとする悪夢を見る場面について言及する。
「6歳と7歳の子どもを持つ親として、敵同士である大人たちが、子どもたちの未来のために問題を解決しようとしている――その姿には、いつも胸を打たれます」。
その感情的な土台があるからこそ、今回のトニー賞ノミネートは特別な意味を持つ。
ピンカムは10年以上前にもトニー賞にノミネートされた経験がある。しかし今回の感覚はまったく違うという。
「前回とはまったく違う経験です。今はもっと地に足がついているし、自分の居場所に確信があります」。
2014年のノミネート以来、彼の人生は大きく変わった。
「今の僕には家族があります。当時はなかった存在で、今では人生の中心です」。
だから今回のノミネートは、
「大好きなケーキの上に乗ったアイシングみたいなもの」
だと彼は微笑む。
もちろん、その裏にある努力も隠さない。
「この作品のために、家族と離れて過ごす時間もありました」。
「そして毎晩、自分にできるすべてをこの作品へ注いでいます」。
さらに彼はこう語る。
「リハーサル中、友達を笑わせようとして言ったジョークで、1,600人の観客が笑ってくれる。あれ以上の幸せはなかなかありません」。
再演版そのものについても、ピンカムは大きな誇りを抱いている。
「僕に言わせれば、これはかなり素晴らしい再演です。同じ劇場で、かつて17回のプレビューと68回公演で終わった作品なんですから」。
「でも今回は、同じ劇場で、興行収入記録を更新しているんです」。
観客に何を持ち帰ってほしいか――そう尋ねられると、彼はこう答える。
「このジャンルで世界最高レベルのパフォーマーたちが、ものすごく難しいことをやり遂げる姿を見て、“圧倒された”と思って帰ってほしいんです」。
幸運にも、その願いは毎晩実現している。
ニコラス・クリストファーが約20秒間ロングトーンを響かせる動画――週8回それをやっている――がバイラルになり、毎晩演奏途中で拍手が起こる理由も、まさにそこにある。
ピンカムの手によって、『CHESS』のアービターは、緻密に作り込まれながらも、即興性、魅力、そして温かな心を感じさせる存在となった。
素晴らしい作品が並ぶ今シーズンのブロードウェイにおいて、これほどの“化学反応”を無視することはできない。
結局のところ、ピンカムの演技は『CHESS』を導くだけではない。この再演が“なぜ今重要なのか”を証明しているのだ。
『CHESS』は2026年9月13日まで、インペリアル劇場にて上演中。



