閉幕日を6月21日に早めたミュージカルのブレイクスターが、長いリバイバルへの道のりを語る
「ミュージカルに求めるものがすべて詰まっている作品です」
*撮影:マシュー・マーフィー
ニコラス・クリストファーをひと言で表すなら、「親しみやすい人」だろう。
それは、今シーズンのブロードウェイを代表する話題作『チェス』で彼が演じている、陰鬱で皮肉屋のアンチヒーロー、アナトリー・セルギエフスキーとは対照的である。
バミューダ出身のクリストファーは、これまで『ハミルトン』でジョージ・ワシントン役と、その後アーロン・バー役を務め、『スウィーニー・トッド』ではアドルフォ・ピレリ役を演じてきた。
そして今シーズン、彼はまさに飛躍の年を迎えている。
それは10年以上にわたるブロードウェイでの努力が実を結んだ結果であり、その成果として『チェス』で獲得した5つのトニー賞ノミネートのうちの1つを自身も手にした。
彼の舞台上での圧倒的な存在感は、「才能」と「準備」、そして「チャンス」が理想的な形で出会った物語そのものである。
多くの観客は、アメリカ人CHESS王者フレディ・トランパー役のアーロン・トヴェイト(『ムーラン・ルージュ!』でトニー賞受賞)や、フレディの恋人でありハンガリー出身のセコンド、フローレンス・ヴァッシー役のリア・ミシェルのファンとして劇場を訪れたかもしれない。
しかし終演後、ロビーで交わされる観客たちの声からは、ひとつのことがはっきりと伝わってきた。
彼らは帰る頃には、
「ニコラス・クリストファーのファン」
になっていたのである。
彼らだけではない。
演出家の マイケル・メイヤー もまた、『スウィーニー・トッド』でクリストファーのファンになった一人だった。
クリストファーは当時を振り返る。
「彼はその公演を観た後に電話をくれました。そして『チェス』をやる予定で、読み合わせを行うところなんだ、と話してくれたんです。そして、信じられないかもしれませんが、彼らはその作品に10年近く取り組んできたと言っていました」。
*撮影:マシュー・マーフィー
『CHESS』という作品と格闘することは、このミュージカルを語る上で避けて通れない特徴のひとつである。
『CHESS』は非常に翻案が難しい作品として有名であり、その奇妙さゆえに人々が何度も立ち返るミュージカルでもある。
表面的に見れば、大ヒット作になる要素がすべて揃っている。
音楽はABBAの ベニー・アンダーソン と ビヨルン・ウルヴァース。
作詞は ティム・ライス。
そして物語の枠組みは、
冷戦時代を、国際チェス界という極限のプレッシャーの世界を通して描く
という、知的で壮大かつ常に現代性を持ったテーマである。
今回のリバイバル版では、第2幕冒頭を飾るアップテンポな名曲
「ワン・ナイト・イン・バンコク」
も改めて大きな人気を集めている。
しかし『CHESS』は常に、不思議な魅力を持つ謎めいた作品として存在してきた。
1984年に発売されたコンセプト・アルバムは、舞台化される前からヨーロッパで大ヒットした。
もちろん、その成功の一因にはABBAの存在があった。
1986年のロンドン・ウエストエンド版は成功を収め、3年間上演された。
しかし1988年にブロードウェイへ移った際には大幅な改訂が行われたものの、わずか2か月で閉幕してしまった。
それ以来、演出家やプロデューサーたちは数十年にわたりこの作品を作り変え続けてきた。
- 楽曲の順番を入れ替える
- 三角関係の描き方を再構築する
- キャラクター設定を変更する
といった試みが、ロンドン、ニューヨーク、そして世界各地の地域劇場で繰り返されてきた。
その過程で作品の評判はむしろ高まり続けた。
『CHESS』は、
カルト的人気作であり、
失敗例として語られる作品であり、
そして「あと一歩で傑作」と言われ続ける作品
でもある。
(現在のブロードウェイ公演は、当初の予定より早い6月21日で閉幕することを最近発表した。)
クリストファーは初めて脚本を読んだ時、その魅力にすぐ取り憑かれたという。
「この作品は本当に奇妙で、そして素晴らしいんです」。
「ミュージカルに求めるものがすべて詰まっています」。
彼はそう語る。
『CHESS』には人間の矛盾が溢れている。
例えばアナトリーの過去は、劇中で明確には語られない。
クリストファーは、その曖昧さをあえて残しておきたいと考えている。
それによってアナトリーの持つ陰影やロマンティックな魅力が増すからだ。
また、物語そのものが持つ混乱や曖昧さを受け入れることで、この作品には逆に強い説得力が生まれるのだという。
*撮影:マシュー・マーフィー
今回のプロダクションが成功している理由のひとつは、3人の主役の間にある化学反応である。
クリストファーは、それこそが作品成功の鍵だと考えている。
この作品は本当の意味で、
「三頭政治(トライアンヴィレート)」
なのだ。
彼はこう語る。
「この作品に関するすべてが驚きでした」。
「キャラクターも、作品そのものも、そしてリアやアーロンとの親密な関係も」。
その深い信頼関係は舞台上にもそのまま表れている。
そしてそれが大きな成果を生み出している。
3人の俳優は、長年共演してきたパートナーのような自然さで、作品の感情的な転換点を乗り越えていく。
その結果、本来なら複雑で理解しづらい物語が、
親密さ
裏切り
切望
といった極めて人間的な感情に根差した物語として成立しているのである。
そして、おそらくそれこそが、この『CHESS』が過去の多くの上演版では果たせなかった成功を収めている理由なのだろう。
地政学的なテーマや壮大な演出があったとしても、このミュージカルが最も力を発揮するのは、
チェスというゲームが結局は人と人が向かい合う行為であること
を忘れない時である。
相手の
- 欲望
- 弱さ
- 犠牲
- 野心
を読み取ろうとする人間同士の戦い。
クリストファーは、その緊張感を本能的に理解している。
彼の演じるアナトリーは、大きな歌唱シーンにおいてさえ決して感情をすべてさらけ出さない。
そこには常に抑制がある。
まるでアナトリーが、
「自分の本心をどこまで見せるべきか」
を絶えず計算し続けているかのようなのである。



